ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

自然災害への対処の困難さにも拘わらず、安全保障論における脅威のイメージは、我々に有用なヒントを与える。神保(2009)は、脅威の烈度の変遷をスペクトラム(連続体)によって描き出した(図2参照29)。伝統的(または対称的)な脅威とそれによる紛争のサイクルは、直線的(リニア)モデルで理解することが(ある程度は)可能であったという。ところが国際テロリズムに代表される非対称的な脅威に関しては、図2に示す「危機」の段階を感知することがきわめて困難である30。自然災害はその特徴からして、「非対称性」の極致である。多くの自然災害について、到来を待たずしてその被害を知ることはできないと言える。したがって、自然災害という脅威のスペクトラムにおいては、「危機」の局面は存在し得ない(あるいはきわめて短い)。神保が示す非対称的脅威と自然災害との類似性から、その対策について、次の事柄を引き出すことができる。以下、これらの点を参考に、国連がとるべき政策を提案する。また、「有事」および「収拾」の局面において、国連は各国の軍と相互補完的な活動を行わなければならない。1.?自然災害のような抑止できない脅威に対しては、被害局限のための能力を高めなければならない。とりわけ副次的な被害を引き起こすことが多い自然災害については、図2の「有事」の局面における対応がきわめて重要なのである。2.?非対称的な脅威は予兆を感知することが困難であるため、平時における「予防」措置がとりわけ重要であることがわかる。これはすなわち、社会の防御機能を高める(=強い社会をつくる)こと31が求められていると言えるのである。3.?図2が示すように、「一連の」脅威には、文字通り「シームレスな」取り組みが強く求められる。それぞれの脅威(特に大規模な自然災害は、復興に長い時間を要する)の局面において、適切な措置を長期的な視点に立ってとらなければならない。98429神保(2009)148頁。30テロ攻撃を事前に感知することの困難さが、このことをよく表している。31神保(2009)146頁。