ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第28回佳作4.安全保障論と国連に求められる役割既に述べたように、安全保障とは、ダイナミックな概念である。しかし、高橋(1998)の議論にもあるように、守るべき「価値」(すなわち安全保障の「客体」)が多様化する一方、安全を保障する「主体」の中心は、依然として国家である23。自然災害に対する国際的な救援に際しても、恒常的な同盟国によるミッションは、非常に小さなトランスアクション・コストをもって実施できる。非国家主体による支援も必要とされることは言うまでもないが、それでも既存のアセットを利用できるミッションの効率は高い24。そこで(非国家主体である)国連による活動は、無論、国家によるミッションと相互補完的な役割を果たさなければならない。上で、人間の安全保障は自然災害という問題に挑戦する上で重要な概念であることを示した。本節では、人間の安全保障と伝統的な安全保障とが相互排他的な概念ではなく、むしろ補完的な対であるという前提を基に、既存の安全保障研究から示唆を引き出すことを目指す。それによって、自然災害に対応する上で、国連に何が求められるかという結論が導かれる。4.1.安全保障論の助言神保(2009)は、安全保障上の脅威を、その「烈度」と「対称性」から分類している25。同程度の規模を持つ国家同士の対立は「対称的」な脅威であり、国家に対する、ならず者国家やテロリストが与えるのは「非対称的」な脅威である26。また、田中(2002)は「脅威をもたらす源泉のアイデンティティーおよび所在についての明確さ」と「脅威の源泉に脅威する意図があるかないか」という観点から、それぞれの脅威をプロットした27(図1参照)。これによれば、自然災害は「意図も特定化もできない」カテゴリーに分類される。伝統的な安全保障論においては、脅威に対処する上で「抑止」が重要であるが、自然災害は文字通り自然現象であるため、抑止することができない28。23また、高橋によれば、国際システムと個人との間に、(国家以上に)有効なインターフェースは今のところ存在しないという。高橋(1998)141頁。24例として、2011年の東日本大震災へのアメリカ軍による救援活動が挙げられる。25神保(2009)136頁。26 前者の例として、核戦争にエスカレートし得る冷戦期の米ソ関係が、後者の例として、国際テロ組織アルカイダがある。神保(2009)135-136頁。27田中(2002)12-13頁。28 神保の言う「対称性」と田中の「主体の明確さ」はほぼ対応するカテゴリーである。したがって、図1の下部に位置する脅威は、非対称的な脅威として理解することができる。983