ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第28回佳作である。ナチス・ドイツが勢力を拡大する(国家間の)緊張の時代にあって、ルーズベルトはこれらを「人類の普遍的な」自由として総称した。すなわち人間の安全保障(およびこれを支える諸概念)は、(国家や集団間の苛烈な対立など)いかなる状況にあっても、ひとりひとりの「個人」を、安全を享受する存在として捉えているのである。人類が得るべき安全を、『報告書』は経済、食糧、健康、環境、個人、地域社会、政治的自由という7領域に分類する4。また、『報告書』は人間の安全保障の基本原則を、普遍性、人間中心、包括性、早期予防とした。唯一の普遍的な国際組織である国連が、人類の普遍的な安全を追求する上で提示したのが、人間の安全保障であると言える。この点で、地震や津波、干ばつなどの自然災害が人々の生命や生活を脅かす現象であることは明らかであり、すべての人が恐怖する対象であると表現できよう。2.2.安全保障概念をめぐる論争と、人間の安全保障の適切な理解では、そもそも「安全保障(security)」とはいかなる概念であろうか。この語は古くは核抑止から、近年では環境問題をめぐる交渉に至るまで、多様な文脈において使用されてきた。しかしながら「安全保障」という語そのものがいかなる状態を指すか、という定義は、実のところ明確ではない5。Wolfers(1962)は、「安全保障とは、客観的には既得の価値(values)に対する脅威(threat)の不在、主観的にはその価値が攻撃される恐怖の不在6」と広く定義した。しかしこの定義からすると、安全保障の「客体」が何であるかによって、その意味合いに差異が生ずる。例えば土山(2004)は、国際政治学における学派ごとに、「何を守るのか」という問いに対する答えが異なることを示した。リアリスト(現実主義者)は国家の生存、パワーと安全の確保を安全保障上の課題とする。それに対してリベラリスト(国際協調主義者)は安定した経済運営を重視するという。また、コンストラクティヴィスト(構成主義者)は、集団(国家)を集団たらしめる、アイデンティティや規範、文化が重要であるとする7。さらに、とりわけコンストラクティヴィストの議論においては、安全保障の客体が不変ではないことも読み取れる。例として、Waver(1995)4国連開発計画(1994)24-25頁。5土山(2004)75頁。6 Wolfers(1962)p.150.7土山(2004)82-86頁。977