ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
978/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている978ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

ることが不可欠なのである。自然災害の一般的な定義は、「地震・火山爆発・津波・高潮・台風・豪雨・異常低温など、何らかの自然現象によってひき起こされる災害1」である。当然ながら、この定義から、自然災害による被害をいかにして抑え、対処するかという示唆を見出すことは難しい。有効なフレームワークが求められる。ここでは、1994年に国連開発計画(United NationsDevelopment Programme: UNDP)が『人間開発報告書(Human Development Report1994:篠田(2004)にならい、以下これを『報告書』と略す)』で明確に提起した、「人間の安全保障」を概念枠組みとして用いる。その理由は下の1 - 3の通りである。以下、これらの論点について詳述する。1.?人間の安全保障は、国家の繁栄のみならず、個人の自由や尊厳を重視する概念であり、自然災害が脅かすものに合致・対応するから。2.?人間の安全保障が、従来の国際政治学における「安全保障論」と矛盾するものではなく、それを補完する概念であるから。3.?2の議論(人間の安全保障と伝統的な安全保障論とが、相互補完的であること)より、国連がとるべき自然災害への対応に関して、既存の理論から有用な示唆を引き出せるから。2.1.人間の安全保障を支えるイメージ:普遍性人間の安全保障という包括的概念は、国連が提起する以前も議論されることがあったが、とりわけ注目される契機となったのが、UNDPの『報告書』である2。人間の安全保障は人々の「選択権を妨害されずに自由に行使でき、しかも今日ある選択の機会は将来も失われないという自信を持たせること」と定義される3。この概念に影響を与え、またこれを支える柱として、1941年にフランクリン・ルーズベルトが掲げた「四つの自由」のうち、「欠乏からの自由」と「恐怖からの自由」が重要9761広辞苑第六版。2篠田(2004)59頁。3国連開発計画(1994)23頁。