ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

る場となっただけでなく、鉄鋼、石炭関係者の参加が多かったことから、後のECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)を実施段階で支える人々の交流の場ともなっていた。また、協議やワークショップによる和解を推進するNGOとして、「カシミール・スタディ・グループ(KSG)」がある。KSGはカシミール系アメリカ人の企業家により設立され、印パ間で対立が続いてきたカシミール紛争の解決を目標として、学者や元外交官、ローカルNGOのリーダー、そしてアメリカ議会のメンバーによって構成された。彼らはカシミール問題について率直な対話を行うことで、その対立の焦点を相互に理解し、解決に向けたアイデアを議論した。また、ワークショップなどトレーニングによりエリート層間の対話を進めたのもトラック2外交の特徴であるが、こうした手法は主にイギリスやアメリカの研究者によって1960年代以降に開発され、ロンドン大学のバートンらによるワークショップが有名である。トラック3:草の根における介入トラック3は草の根の市民を対象とする活動であり、ここで行われる介入は、いわゆるNGOの紛争解決活動として最も一般的なものである。冷戦の終焉以降の国際紛争においては、政策決定者や戦闘員だけでなく、一般市民までもが紛争に巻き込まれ、また一方で、そうした一般市民が虐殺の加害者にすらなるという、紛争の大衆化とも言える事態が起きている。それは、これまで国際法が構築してきた集団安全保障体制を飛び越え、紛争解決をより複雑化させている大きな要因となっている。こうした草の根の人々が紛争の当事者になっている現状において、彼らに対する活動が、紛争解決活動の裾野で1990年代以降、急速に発展してきた。そこで行われる事例は多岐に亘っており、兵士の社会復帰や、紛争のトラウマに対する心理療法、加害者と被害者の両者が一緒に働いたり、教育を受けたり、スポーツイベントを開催するといったコミュニティビルディング、平和教育などが一例である。またその過程で関わる非政府主体には、メディアや宗教組織なども含まれる。例えば人権啓発や開発援助を行うNGOが、医療や886