ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

アハティサーリは2000年に大統領を退任してから程なくしてCMIを立ち上げ、紛争解決に本格的に乗り出した。CMIの活動で最も有名なのはアチェ紛争の調停であろう6。アチェでは、オランダ植民地時代からジャワ島を中心としたインドネシアの周縁部として独立志向が強く、70年代からは自由アチェ運動(GAM)がアチェの分離独立を掲げてゲリラ活動が活発に行われてきた。しかし、2004年のインド洋津波によってアチェ住民が壊滅的な被害を受けたことを機にGAM側のゲリラ活動が沈静化し、ザートマンの言う紛争の「成熟度」が高まったこのタイミングで、アハティサーリとCMIは和平調停を始め、スウェーデンに亡命していたGAM指導者とインドネシア政府高官の本格的な和平交渉が行われた。半年間の交渉の結果、GAMは特別自治を手にする見返りに独立を断念し、アチェ紛争の和平合意が締結された。アチェ紛争におけるアハティサーリの活動として見事だったのは、その後の停戦監視と武装解除へのシームレスな移行を進めた点にある。アチェ和平合意では国連の仲介が無かったためPKOの展開は難しかったが、アハティサーリはEUのハビエル・ソラナ共通外交・安全保障政策(CFSP)担当上級代表に停戦監視団への参加を打診し、ブリュッセルのEU本部では各国代表に協力要請のため根回しを行った。そして2005年、EUはアチェ監視団(AMM:Aceh Monitoring Mission)を派遣し、ASEANとともに停戦監視と武装解除を進めた。現在に至るまでEUのアチェにおける復興活動は続けられており、これも同じくアハティサーリが関わったコソヴォと共に、CFSPの海外展開における代表的事例となっている。こうしたカーターやアハティサーリによる活動は、その主体としては非政府であることからNGOの活動と位置付けられるが、その対象は紛争当事者の中でも政策決定者ないし指導者であり、また、トラック1とのネットワークを存分に活用していることから、トラック1.5の紛争解決活動として位置付けられよう。しかし、こうした和平調停にNGOが直接乗り出すケースは、紛争解決活動の中でも少数派である。トラック1.5が直接的に政策決定者を対象にしてきたのに対して、徐々に、そうした政策決定者の一段下にいるエリート層も、紛争解決の対象として取り上げられるようになってきたが、これがNGOによる8846アチェ紛争におけるアハティサーリとCMIの調停に関しては以下参照。カトゥリ・メリカリオ(脇阪紀行訳)『平和構築の仕事』明石書店、2007年。脇坂紀行「すべての紛争は解決できる――ノーベル平和賞受賞者・アハティサーリ氏の軌跡」『世界』2009年1月号。