ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
879/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている879ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

紛争解決における国際NGOの重層的活動第27回優秀賞相良祥之はじめに冷戦の終結から20年が経過した。この20年間は大国間の核戦争の恐怖から解放される代わりに、民族や宗教などのアイデンティティをめぐる武力紛争が世界中で頻発した時代であった。冷戦後の武力紛争では、戦闘員のみならず一般市民までもが虐殺の対象となっており、近年は国連や国際赤十字(ICRC)、NGOの援助関係者などまでもが攻撃の対象となっている。こうした激烈な武力紛争は、単に思想としての平和主義のみでは足りず、骨太な現実主義的な思想に基づいた作業の積み重ねによってしか解決しえない。かつて高坂正堯は、現実主義について下記のように述べたことがある。現実主義とは力の必要性とともにその恐ろしさを認識する立場なのである。この二つの極の間の釣合いをとることこそ、現実主義のもっともむつかしい課題かもしれない。それは政治について、基本的に消極的な見方をとり、政治を偉大な建設者としてよりも、0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0利害の妥協をおこなう調停者としてみる立場なのである1。(傍点引用者)思うに、現代の紛争解決においても、高坂が述べた「調停者」としての立場からのアプローチは重要なのではないだろうか。それは「正義」を外部の介入者が一意に決めて武力でもって制圧することでも、いわんや甚大な虐殺を知りながら座視することでもない。紛争解決における調停とは、紛争当事者の利害や思想、尊厳、プライドといった対立を直視し、丁寧に解きほぐしていくことで、紛争を解決させる術である。本稿では、現代の国際紛争の解決に関与する主体としてNGOに焦点をあてて考察して1高坂正堯『海洋国家日本の構想』中央公論社、1965年877