ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

上国における人口爆発と先進国における少子高齢化の問題をグローバルな課題として、人口移動も視野に入れて長期的視点から考えていく必要がある。気候変動や生物多様性といった地球環境問題も、将来世代の人権として長期的視点から考察することができる。6-4地球市民社会の黎明NGOや市民社会は世界をどのように変えようとしているのだろうか。そのプロセスやビジョンを「グローバル・ガバナンス」や「地球市民社会」と呼ぶとしたら、それはどのような特徴を持つのだろうか。より改善されたグローバル・ガバナンスとして、チャーノヴィッツはそれを「コスモポリティックス」として捉えた24)。世界貿易機関をはじめとする国際機関は、今や政府間組織や多国間主義を超克して、多様な領域からの多様なアクターの参画と支持を反映したものにならなくてはならない。国家体系、地方政府体系、超国家体系、脱国家体系が地球規模で政治的、社会的な相互作用を及ぼし合うダイナミックな新しい政治体系をキーンは「コスモクラシー」と呼んだ25)。それは、ウエストファリア体制のような主権国家間システムと世界政府の中間的位置にあると認識されるが、アリストテレス以来の政治学的な類型では捉え難い複雑で動態的な政体である。NGOの活動や一連のグローバルな社会運動や突発的な事件や決定により、システム全体の帰結に不均等な影響を及ぼすことがある。現に、ブレトン・ウッズ体制や冷戦体制の崩壊、国際的な通貨金融危機や9.11テロ事件とそれらに対する国家、国際機関、非政府組織の対応が大小のうねりとなって、胎動を続けている。NGOを含む市民社会の運動は、G7/G8サミット、国連総会、WTO閣僚理事会などのイベントを標的として動員されることもあるが、世界経済フォーラムや世界社会フォーラムのように、国際経済体制の崩壊や国際会議の影響を受けて誕生した後に独自のダイナミズムを生み出す動きもある。歴史の帰結はオープンであり、どのような「地球市民社会」が誕生しつつあるのかについてはまだ不明確なところが多い。グローバル・ガバナンスや地球市民社会についての分析や設計は、政策科学(サイエンス)だけでなく術(アーツ)によるところも大きいのだ87224)Steve Charnovitz,“WTO Cosmopolitics,”New York University Journal of International Law and Politics, 34, (2002),pp.299-35425)John Keane, Global Civil Society? (Cambridge University Press, 2003), pp.92-128