ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第27回最優秀賞である。内向きに転じたアメリカの単独行動主義、アメリカの国連たたき、国連を軽視したパートナーシップ形成などにより、平和・安全保障機構としての国連の指導性の復元には程遠いのが現状である。一方、国際政治のマクロ的次元を離れ、一般市民の考えや行動パターンを見ると、過去には予想もされなかったミクロ的次元での変化が見られる。それは、教育の普及、情報通信技術の目覚ましい発達のおかげで、一般市民の分析能力、判断力が格段に向上したことである。これにより、自己の所属する組織に対する忠誠心が薄れ、トップダウン式の命令が容易に行われなくなってきている。2国家の脱力化と多様な非国家アクターの台頭国際政治が全て国家中心に動いていた時代は終わり、国家以外のアクターの影響力が増大してきたことは広く認識されている。ことに重要なのは、国家の脱力化を補完する方向で、非国家アクターが政治を動かし、経済の動きを左右する傾向が顕著となってきていることである。例えば、1980年代から1990年代にかけて、IBRDやIMFが途上国の窮状を悪化させたり、多国籍企業が自己利益の追求に都合の良い経済のグローバル化を助長させ、南北格差や貧富の格差の増大をもたらした。この状況下で、社会開発や環境問題に取り組むUNDP(国連開発計画)、UNICEF(国連児童基金)、ILO(国際労働機関)などの努力や、これを強く支える市民社会の台頭は特に重要な新しい進展と言える。3グローバル・ガバナンスの必要性グローバル化は、従来から存在した世界の4つの主要課題―すなわち、平和、人権、開発、環境―に新たにグローバルな性格を付与するに至っているが、それは第1に、世界の主要課題のそれぞれが全てのアクターに影響を与え、その解決には全てのアクターの協力を必要とすることだ。第2に、問題の相互依存性ゆえ、個々の分野の問題に対処するのでは十分ではなく、総括的に問題に取り組むことが必要であることだ。この特徴に注目し、実際の国際協力の指針となってきたのが、グローバル・ガバナンスの考え方857