ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回佳作に向けた訴求力は十分である。勧告的意見が出されて以降、同意見は過去の事例としてのみ取り扱われているような部分がある。しかしながら、筆者はここでひとつの提案をしたいと思う。それは、核軍縮義務の進捗状況を検証し、核軍縮を推進すべく、国連総会決議を採択し、再度、勧告的意見を国際司法裁判所に要請するのである。すなわち、1996年の意見で言及された、核軍縮完了義務に関して、これを検証し、国際世論に問うのである。勧告的意見を要請する決議は、再び非核保有国が大半を占める国連総会の場においてなら成立する可能性があるのではないか。たとえ結果的に勧告的意見が要請されたにもかかわらず、国際司法裁判所が意見を出さなかった場合でも、要請することによって国際世論に訴えることができるであろう。ところで、国際司法裁判所は常に勧告的意見の要請に応えなければならないのであろうか。国際司法裁判所規程第65条によれば、「裁判所は、国際連合憲章によって又は同憲章に従って要請することを許可される団体の要請があったときは、いかなる法律問題についても勧告的意見を与えることができる」とある。いわば、国際司法裁判所の自由裁量とされており、決定的事由(compelling reason)がある場合にのみ意見要請を断ることができるとされている21。実際に今まで、この裁量権を行使しての意見要請が却下された例は存在しないが、既に1996年の勧告的意見を出した以上、同一ともいえる性質の問題に関する意見の要請を却下する可能性も否定できない。いずれにせよ、「核兵器なき世界」を実現するためには、核兵器の非人道性のみならず違法性を国際社会に対して訴求すべきである。その手段として、国際司法裁判所への意見の再要請は有力な手段として考えられるのである。4ヒロシマ・ナガサキで首脳会合をまた、普遍性を有する国連の役割として、世界の人々に核兵器の廃絶に向けた啓発のための広報活動が求められる。「核兵器なき世界」を実現するためには、安全保障理事会決議や総会決議などを積極的21 末吉洋文「第1章紛争の平和的解決」、家正治、末吉洋文、桐山孝信、岩本誠吾、戸田五郎著『国際紛争と国際法』所収、(嵯峨野書院、2008年)50頁。843