ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

は、いかなる状況においても国際法上許容されるか?」という内容のものであった18。勧告的意見は、憲章第96条に明記されるものであり、国連総会によって要請されたものである19。裁判所における議論の中では、問題の政治性も手伝って、勧告的意見を出さないべきだという主張の裁判官もでるほど紛糾したが、結局裁判所は1996年7月8日に勧告的意見を出した。その内容は、以下のとおりである。まず、「核兵器使用を許可する国際法規則なし」「核兵器使用を包括的かつ普遍的に禁止する国際法規則なし」とした上で、「国連憲章に反するような核兵器使用は違法」「国際人道法に反するような核兵器使用は違法」と位置づけた。そして、裁判所は結論的に「上記の要件から、核兵器の威嚇または使用は、武力紛争に適用される国際法規則、特に人道法の原則と規則に一般的には違反するであろう。しかし、国際法の現状および利用可能な事実の要素からすれば、裁判所は、国家の生存自体が危うくされるような自衛の極端な状況において、核兵器の威嚇または使用が合法か違法かを確定的に結論することはできない。」この勧告的意見は、「玉虫色」とも椰楡されるほど、曖昧な内容の勧告的意見であったとも評価される。それだけ各国の主張がぶつかり合い、裁判官を悩ませたことが伺える。懸念されるのは、自衛権の行使として核兵器の使用が許容される可能性が残されたことである。他方で裁判所は、最後に核軍縮に導く誠実な交渉遂行とその達成義務について「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」と判断した。これは傾聴に値する20。軍縮に関するこの部分については、これを「結果の義務」を、核を保有する各国に要請したものといえよう。勧告的意見それ自体は法的拘東力をもたないものの、道徳的な力、換言すれば核廃絶84218 概要については、植木俊哉「核兵器使用に関する国際司法裁判所の勧告的意見」『法学教室』第193号(1996年10月)、97-105頁。19 国連憲章第96条1項は、「総会又は安全保障理事会は、いかなる法律問題についても勧告的意見を与えるように国際司法裁判所に要請することができる。」とし、続く第2項は「国際連合のその他の機関及び専門機関でいずれかの時に総会の許可を得るものは、また、その活動の範囲内において生ずる法律問題について裁判所の勧告的意見を要請することができる。」と規定する。20なお、勧告的意見に先立つ1970年の友好関係宣言においては、完全軍縮のために各国に交渉義務を課していた。憲章に基づく安全保障理事会の権限として、「すべての国は、効果的な国際管理のもとにおける全面完全軍縮に関する一般条約の早期締決のため誠実に交渉を行わなければならず、また、国際緊張を和らげ、かつ国家間の信頼を強めるため適当な措置をとるよう努力しなければならない」と規定した。