ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回佳作動しなければならない。」とあり、第3条においては「すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。」と謳われている。これは、核兵器の惨禍から逃れる権利、とも読み替えることが可能である。すなわち、平和的生存権とも関連する権利がここでは明記されているのである。したがって、国連が中心となり、人権からのアプローチ、すなわち国際社会における平和的生存権を追求すべきである、とも主張しておきたい。国内的にも、そして国際的にも平和的生存権は、その法的権利としての性質については論争が残っている長らく「新しい権利」でもあるといえる。国内的には、自衛隊のイラクへの派遣が違憲であるとした訴訟が2008年4月に名古屋高裁で行われ、判決文の中で同権に関する言及がなされたことは記憶に新しい(この判決においては平和的生存権の具体的権利性が認められた14)。他方で、国際法上の平和的生存権に関しては、1980年代初頭に松井芳郎教授が論稿を発表している15。同論文の中で、松井教授は、平和的生存権を「プログラム的権利」ないし「生成途上の権利」と性格づけながらも、平和と人権の不可分の相互依存関係を表象し、「平和的生存権のためのたたかいが、たんに戦争の危機に対するたたかいだけでなく、社会の軍事化を阻止し、軍縮を求めるより日常的なたたかいをも含むことは当然であろう」と指摘している16。さらには、軍縮問題についても人権、つまり「平和的生存権」の視角からのアプローチが可能でもあり必要でもあることは、明らかだと思われる、とも述べている17。新たな脅威が出現した現代の国際社会において、人間の安全保障(human security)を含む人権の観点から平和的生存権を考察した上で、「核兵器なき世界」の実現は、すべての人々の平和的生存権を保障すること、そして同時に国連の目的である「国際の平和および安全の維持」に大きく寄与することを証明しなければならないであろう。フォーラムないし手段としては、人権理事会もしくはICJに対する勧告的意見が考えられよう。31996年ICJ勧告的意見の再考1994年に国際司法裁判所に対して要請された勧告的意見は、「核兵器の威嚇または使用14 中谷雄二「平和的生存権の具体的権利性を認めた名古屋第七次訴訟判決」『法学セミナー』第638号(2008年2月号)、44-47頁。15松井芳郎「国際法における平和的生存権――一つの覚え書」『法律時報』第53巻第12号(1981年)8-14頁。16同上書、13頁。17同上書、13頁。841