ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

攻撃を仕掛けてくるかが不明である以上、暗中模索、そして疑心暗鬼の安全保障政策をとらなければならない。また、その安全保障政策も、米国の安全を完全に保障できるというものではないのである。自爆攻撃を仕掛けるテロリストに対しては、もはや核による抑止は意味を持たないし、自衛権の発動対象が存在しないという事態がむしろ常態となることが想定される。このように、「核なき世界」を米国が主張し始めた背景には、テロ戦争を遂行している米国の安全保障政策が大きく影響したものと考えてよい。第二に、軍事費の削減を挙げることができるであろう。リーマンショックは日本の金融・財政のみならず国際的に大きな打撃を与えた。いわゆる世界同時不況である。国家である以上、国民の生命および財産を守ることが至上命題ともなるが、こうした財政的問題を抱えている以上、軍事費にも影響が及ばない保証はどこにもない。いずれの核兵器保有国にとっても、核抑止論に依拠できない状況においては、核に関わる軍事費の削減と財源の平和的転用―軍事費を福祉や健康に関わる財源に転用する―が現実味を帯びてきたからであり、そもそも本来守るべき対象であるはずの国民が失業や飢餓状態にあっては本末転倒になりかねない。この点、既に1968年に採択されたテヘラン宣言においては、決議19において「軍縮は、現在軍事的目的にあてられている、膨大な人的、物的資源を開放するであろう。このような資源は、人権及び基本的自由の促進のために用いられるべきである。全面完全軍縮は、すべての人民の最高の熱望の一つである」と述べられていたところである。このように、軍事が福祉のための財政を逼迫させるという状況は時代を経ても変化していない。また、ごく最近の例を挙げると、2010年1月12日に採択された総会決議64/32は「軍縮と開発の関係」と題し、同決議においては、軍縮と開発の関係における国連の中心的役割を強調するとともに、1987年に策定された行動計画の履行に関して事務総長に行動をとるよう要請したり、さらには国際社会に対して、軍縮によってその資源を経済的及び社会的開発に充当することが求められている。また、同決議パラグラフ4においては、ミレニアム開発目標の達成における軍縮の貢献についても言及が行われているのである5。8365 2015年までに達成すべき8つの目標であるミレニアム開発目標が軍縮の議論とあまり関連付けられていない点は残念であり、もっと強調されてしかるべきであろう。なお、世界の軍事費は2008年で総額は1兆4640億ドル(約144兆円)にものぼり、前年よりも実質4%伸びたとされる。http://www.sipri.org/yearbook/2009/05 <最終アクセス日時2010年2月25日>