ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回佳作Ⅰ核兵器廃絶問題の現状と課題2009年のノーベル平和賞は、オバマ米国大統領に対して付与された3。これはオバマ大統領による2009年4月5日のプラハ演説が受賞の大きな契機となっている。その内容は、第一に、米国は核兵器国として、また核兵器を使用した唯一の国家として行動をとる道義的責任を有しており、明確かつ確信を持って核兵器のない平和で安全な世界を追求するというコミットメントを宣言すること。第二に、冷戦思考を終わらせ、米国の国家安全保障政策における核兵器の役割を低減させ、他国に対しても同様の措置をとるよう促すこと。そして第三に、ただし、核兵器が存在する限り、米国はいかなる敵をも抑止し、同盟国の防衛を保証するための安全で効果的な核兵器を維持すること、である。周知のとおり、米国は核保有国であり、とりわけブッシュ政権時においては「核のない世界」という提案が米国自らの提案として国際社会に提示されることはおよそ考えられないことであった。なぜなら、ブッシュ政権は、イラク戦争に象徴されるように、対テロ戦争を開始したばかりか、単独行動主義に基づき、国連での決定を無視、すなわち国際法に違反してまでも自国の安全保障を追求するという安全保障政策を採り始めたからである。その主だった理由は以下の2点であろう。第一には、テロリストへの核流出の防止である。旧ソ連崩壊時に核関連技術が流失し、今日においてもテロリストによる核を使用したテロリズムの発生が懸念されている。もはや国家間の武力紛争という旧来の形態から、そして冷戦後に多く見られた内戦という構図とは別の、それこそ「新しい戦争」が開始されているのである。同時に、国際社会で発生している現象としては、市民社会の到来と同様、アナン前国連事務総長によって名づけられた非市民社(uncivil society)と呼ばれる、テロリストや海賊、そして組織犯罪集団といった非国家主体の悪玉に対してどのように対処すべきかという困難な課題を突きつけられている。これは、米国のみならず、「国際の平和および安全の維持」をその目的とする国連も同様である4。「核なき世界」主唱し始めた米国にとっては、駆逐すべき対象であるテロリストが何時、どこからどのような形での3 米CNNテレビが20日伝えた世論調査によると、オバマ米大統領へのノーベル平和賞の授賞について米国民の56%が支持していないと回答した。契機となったのは「核兵器のない世界」であり、その源流を遡ると、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙(2007年1月4日付)に4名の元米国政府高官が発表した構想による。その4名とは、ジョージ・P・シュルツ(元米国国務長官)、ウィリアム・P・ペリー(元米国国防長官)、ヘンリー・A・キッシンジャー(元米国国務長官)、サム・ナン(元米国連邦議会上院軍事委員会委員長)である。4 国際連盟においては、平和維持における三位一体原則のひとつとして、軍縮(あと2つは紛争の平和的解決と安全保障である)は第8条の6つの項として規定された。家正治、川岸繁雄、金東勲編『国際機構〔第三版〕』(世界思想社、1999年)、9頁。835