ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

ではあったといえる。その後、カーン博士の証言によって「核持ち出し疑惑」が発覚したように、核軍縮はおろか、核管理さえままならないという状況であった。2001年9月11日には米国で同時多発テロ事件が発生し、これまでの主権国家によって構成されていた国際社会における脅威の意味合いが大きく変化した。もはや戦争(国際的武力紛争)は下火となり、代わって内戦やテロリズムが蔓延することになったのである。こうしたテロ時代を迎えて核兵器はいつ何時使用されるかわからない兵器となった1。その意味においては、最後に使用されたヒロシマ・ナガサキから60年以上経過したものの、放射能がもたらす恐怖はなお払拭できないでいる。すなわち、これまでの国際関係における文脈において信頼された予想は裏切られることとなった。相互確証破壊(MutualAssured Destruction)は、冷戦期において、米ソがお互いの核報復力を事前に破壊、核戦争になれば米ソともが共滅という事態を招くことがあるために、核兵器はある意味「使用されることのない兵器」として受け止められていたところがあった。その実、集団安全保障制度を導入した国連憲章体制ではあったが、核兵器については勢力均衡という、時代に逆行する現況にあるとさえいえよう。さて、本稿では「核兵器なき世界」に向けて動き出した国際社会における国連の役割について考察したいと思う。やはり普遍的国際組織としての国連こそが「核兵器なき世界」を実現するためのカギを握っていると言わなければならない。国連大学が出版した研究書によれば、国連の相互に関連する、しかも個別かつ独特の三つの役割とは、第一に、アイデアを規範や政策へと変化させるとともに、国内情報を国際社会へと伝達する漏斗(funnel)の役割、第二に、国際社会における共通の立場、政策、条約、そしてレジームを議論及び交渉するフォーラムの役割、そして第三に国際的な規範を有権的に宣明するとともに、グローバルな規範やレジームの遵守をアピールし、そしてそれらの遵守を強制するための強制的措置に関する国際的な正当性の源(font)である2。以下では「核兵器なき世界」に向けた現状と課題を考察したのち、国連の役割と課題、そして可能性を以下において考察したいと思う。8341これまで核兵器の使用が検討された事件はどれほど数えられたのであろうか。筆者が2006年8月に広島の平和記念資料館を訪問した際に書き留めたメモによれば、計20件にも上る。2 Jane Boulden, Ramesh Thakur, and Thomas G. Weiss,“The United Nations and nuclear orders: Context, foundations,actors, tools and future prospects,”in Jane Boulden, Ramesh Thakur, and Thomas G. Weiss (Ed), The United Nationsand Nuclear Orders, United Nations University Press (2009), p.21.