ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
793/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている793ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回優秀賞りなく核廃絶に近い数」に低減していくことを前提にしなければ不完全だと言わざるをえない。したがって、核廃絶を実現するには、このステップをクリアしていくことが不可欠となる。そして、努力の結果、地域安全保障の枠組みが整備されて核が限りなくゼロに近づいた段階に到達したと想定しよう。そうなれば、核保有の目的は、潜在的核保有国への対抗ということになり、核保有国は相互に利害を共有化することになる。この段階に到達すれば第三ステージのアプローチとして、核兵器の国際管理は可能となろう。具体的なイメージとしては、通常の紛争等に対しては地域安全保障の枠組みで対応し、核を所有して秩序をかき乱す国に対しては、最終的に国際管理下で核を抑止するという構図である。し注3)かし、国際管理の形態が、どのような国際管理方式をとればよいのか様々なパターンがあるが、核保有国の利益優先にならない工夫が必要である。いずれせよ、核が国家から切り離されるほど、核廃絶の道は短縮されていくということだ。一方、核兵器の国際管理とともに核兵器拡散の可能性をゼロに近づけていくことも同時に不可欠である。核拡散を防止するには、高濃縮ウランやプルトニウムといった軍事転用可能な核分裂物質の国際管理が必要となる。現在のNPT-IAEA体制では高濃縮ウランやプルトニウムとも基本的には保有国の自主管理に任せており査察という形で軍事転用されていないか点検作業を行っているにすぎない。とはいえイラクのように査察の網の目をかいくぐり軍事転用した例にあるように、核拡散防止の観点からは厳しい国際管理体制が不可欠となる。しかし、厳しい国際管理により核拡散の危険を低減し大幅な核軍縮を行うことは可能となるが、厳しい管理を行ったとしても完全に軍事転用を防ぐことはできない。核拡散の危険がわずかでも残る限り核保有国は、核廃絶を容認しない公算が強い。そうなれば、核廃絶を実現するには、核分裂物質を利用する時代に終止符を打つことが必要になる。しかし、現実的には世界全体が大量の電力消費で成り立っており、ウランとプルトニウムなど核分裂物質を活用する原子力発電の手助けなしには電力需要量に見合う電気を供給できないのが現実である。そうした中で原発を停止すれば、資金力のある国が石油を買いあさり国際的に燃料が高騰し貧困国にしわ寄せが及び、途上国がエネルギー問題で苦し注3)例としては、1国連安全保障理事会による管理、2核保有五カ国による管理、3地域安全保障の枠組みを通じた管理があげられるが、いずれも不確定要素が大きい。791