ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

のではなく、政治的手法で核の価値を無用化することを模索すべきである。しかし、残念ながら一足飛びに核廃絶に到達することは難しい。そこで、核廃絶を射程内に入れながら、1)軍縮による核の存在価値を低減させる方策と、2)国際社会の安全保障環境を安定化させる方策の二つの側面から検討していきたい。(1)軍縮による核の存在価値を低減させる方策まず、軍縮による核の存在価値を低減させるには、最大の核保有国である米国とロシアが核戦力の削減・廃棄に努めなければならない。米ロは既に合意済みのモスクワ条約で2012年までに戦略核兵器を1700~2200発に削減する取り決めを行っている。しかし、この段階でも核兵器の持つ爆発力は、世界の主要都市を壊滅させる能力と大量の放射線を放つパワーが依然として残り、大量殺戮に加えて「核の冬」であるオーバーキルが到来する危険を秘めている。そこで、まずモスクワ条約以降に到来する核軍縮について検討する必要がある。その際に重要なポイントは、核の軽武装化を図ることである。具体的には、第一に巨大な破壊力もつ水爆を廃棄することだ。米ロは相手の大陸間弾道弾(ICBM)の地下倉庫を攻撃して破壊する戦略を練り、命中率の高いミサイルに加えて小型で大きな破壊力を生み出す水爆の技術開発に拍車をかけた。しかし、冷戦が終結して大量のICBMが地下収納倉庫を標的にする必然性はなくなった。相手の地上・地下施設を破壊するには原爆だけでも余りある破壊力を持っているため核抑止論を継続するうえで、水爆が必需品であった時代はひとまず終了したといえる。ポイントは、核抑止の手段を爆撃機に搭載された原爆に抑え込むことである。ここまで到達するだけでも容易でないが、21世紀の早い時期にこのレベルまで実現できる戦略を練り交渉を開始することが必要である。第二に、弾道ミサイルを廃止することだ。STRATⅡでは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の複数弾道を禁じるなどICBMの威力を大幅に制限した。次の段階では、大陸間弾道ミサイル以外の中距離弾道ミサイル(MRBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などの弾道ミサイルも大幅に削減し、全面禁止する方策を模索することである。米ソが1960年784