ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

界の非核化のチャンスは増えるはずであると考えられた。しかし、現実には、世界は非核化の方向に向かわず核時代が消えさることはなかった。核時代の解消ではなく、米ロ双方で「核抑止論」が生き残った。とはいえ、世界は核抑止による「恐怖の均衡」を決して容認してきたわけではない。核戦争を回避するために核実験禁止、核管理・核軍縮が試みられ、一方で核不拡散体制の充実や非核地帯の設置などにより核戦争予防策が講じられてきた。にもかかわらず、核兵器の拡散防止は十分な成果をあげることはできなかった。それには、核兵器保有国が核兵器を廃絶できない事情があり、核兵器をもたない非核兵器保有国にとっても依然として魅力的な兵器だからである。それでは、今なおも核保有国である米国とロシアが「核の傘」を含めた核抑止論に固執する事情は何か。それは、1)核保有の正当化、2)不確実性への対応、3)大国としての地位保全の大きく三点が背景としてあげられる。たとえば、1)に関しては、圧倒的に核保有量を保持してきた米国とロシアは、軍縮により戦略核を冷戦時代の約三分の一に削減する計画であるが、すぐには核を廃絶できないのが現実であり、核兵器が存在するかぎり核保有を正当化する理由づけをすることが必要になるからである。そこで、核保有の支えになるのが核抑止論である。核抑止論が「裸の王様」である限りできるだけ利用しようとするのは当然であり核抑止論の温存につながってしまうのだ。2)に関しては、明確な敵がいなくても将来出現する可能性がある顔のみえない敵に対して備えをしていることである。つまり、米ロの国益や国際秩序を乱す国家や集団が現れるという不確実性を想定して核戦力を保持しているのである。また、3)に関しては、核を所持しその問題に取り組むことで米ロとも他国とは異なる大国である政治的イメージを国内外にアピールし、世界のリーダーシップを演出することができることである。つまり、核大国であることが外交面で大きな交渉カードになっていることである。一方、非核保有国は、どのような事情により核兵器が魅力的なのであろうか。それには、米ロ間にみられるような相互確証破壊に基づく核抑止力の獲得というよりも、政治・外交面で有利な交渉カードを引き出すための手段として核開発を行う事情があるからである。782