ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回最優秀賞利益実現の使命感や我が身の保身のため、あくまで核兵器廃絶を拒否するかもしれない。当論文では充分に長期的な視点に立てば、政権交代を通じて政策が転換する。核兵器廃絶の方針に転換した時点で当条約に加盟させ、当該方針転換を固定化しようと論じている。しかし、例えば独裁国家等で政権交代が見通せない国々も存在する。その場合でも、あくまで体制変更の実現を待つのも選択肢の一つであるが、NWAT非加盟国が充分に少なくなった時点で、当該国家のみに的を絞った個別の加盟促進策(国内体制保全の約束など)を講じるのも選択肢となりえよう。現時点でその方策を具体的に提示できない(具体的促進策はその国の核兵器保有動機によって異なる)ので、これも「残された課題」である。おわりに論者は核兵器廃絶論議に関わる論考を読むと「核兵器廃絶をやる気の無い人たち(核兵器保有国の為政者のこと)に「やりましょう」と言っても効果ないのに。」という素朴な感想を持ってしまう。本論でも述べたが、理想論はどれだけ精緻化しても理想論であり、国家運営という現実課題を背負っている為政者の心には響かないであろう。そこで、当論では核兵器廃絶という理想を実現するための現実論を、十分に現実的であったかは別として、論者なりに精一杯展開した。このように理想を実現する現実論を立案するだけでなく、それを実行する立場にある人々はどこにいるのであろうか。国連の職員はその任務の遂行に当って、いかなる政府や他の当局からも指示を求め、受けてはならないとされている*18。すなわち、国連の目的実現にのみ責任を負っているのであり、謂わば、地球号に乗船している世界市民のために働く存在である。現実世界に生き、現実主義者たらざるを得ない為政者に対し、短期的利害に惑わされず、現実を踏まえた理想主義者として理想に向う現実的実現方策を働きかけ、以って世界市民に対する責任を果たすことが国連職員の責務の本質だと論者は勝手に解釈している。世界市民に対し責任を負う立場にある人々を一国家の枠内で探すと案外いないのである。この認識が国連への論者の期待を形作っている。核兵器廃絶問題に対する国連の役割は大きい。*18国連憲章第100条761