ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第二に核神話の打破を挙げたい。核兵器を是認する議論として抑止力としての核兵器の有用性が主張されている。しかし、抑止力が有効に機能するには被抑止側(敵国が核兵器を保有しており、核の脅威を感じる方の国)に攻撃を行うことで得られる利益と相手からの報復で被る不利益とを比較するという合理的判断が必要となる。第四次中東戦争はイスラエルに攻撃をしかけたエジプト側にこの合理的判断は存在しなかった。エジプトは名誉の回復、アラブ諸国の中で優越的地位が失われるという恐怖から戦争を始めた*17。冷戦下、二極体制下では仮想敵国も限定されていたので為政者の合理的判断を期待できたかもしれないが、核が拡散した現代では全ての為政者に合理的判断を期待することは危険だ。結局、現代でも各国の軍事戦略は冷戦下のままなのである。軍事戦略を高度化することによって、現代世界において核兵器が有効な武器ではないことが証明されるであろう。軍事専門家は発想の出発点として核兵器を有効に使用するという方向性で軍事戦略を検討する。専門家は自らが保有する専門知識や資源を有効活用することをまず考えるからである。だからこそシビリアンコントロールとして文官が軍事戦略の策定を統制すべきであるが、文官も組織の一員である。組織人とは自らの属する組織の権限拡張を一義的目的としてしまう傾向があるので、文官といえども結局は核兵器の有効な利用を検討の出発点としてしまう。軍事戦略の高度化は軍事関連予算・人員を掌る組織以外の組織で検討しなければならない。それが組織の論理をも考慮した真のシビリアンコントロールである。論者の想定に反して現代世界では核兵器の有効性が更に高まるという結論もありうるので、この高度化も「残された課題」である。最後にこれは第二の論点とも関係するが、様々な理由により核兵器は必要と信じる為政者の存在である。仮想敵国の核脅威が核兵器保有理由の全てではない。仮想敵国に対し通常兵器の装備が比較劣位にあり、核兵器に頼らざるを得ない国や外交を有利に進める手段として核兵器の保有が効果的と考える国がある。このような目的のためなら核兵器保有は有効であるとの解釈もありえよう。(論者はそうは考えないが、考える為政者がいても不思議ではない。)これらの国々の為政者は世論が核兵器廃絶をいくら要求しても、自国の760*17「「抑止」に関する一考察」三嶋哲日本大学総合社会情報研究科紀要No9. 2008