ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回最優秀賞が、ICJが勧告的意見を出した背景には反核NGOなどの運動も与っており*12、互いに活動を支援し合っている。)国際機関のこのような意思表示は、長い目で見れば、世論の基礎となる一般国民の意見形成にも大きな影響を与えるだろう。NGOの活動も一般国民の意見形成に影響を与える。2008年12月カーター元米国大統領、ゴルバチョフ元露国大統領など世界の有識者が参加した核兵器廃絶を目指すグローバルゼロ・キャンペーンはハイレベルな政策関係者の参加により「政治的空間の増加」を実現させた*13。身近な例では、広島市、長崎市という被爆自治体による反核運動に触発された日本国民も多数存在するだろう。これらの活動も世論の形成に大きな影響を与えよう。そうであるならば、国連(国連に限らず核問題と関連を持つ国際機関)は個々の国々の(特に核保有国の)地方自治体やNGO組織など多様な組織との協力関係を築きながら、彼らに発言の場や彼ら同士が協力関係を結ぶ場を提供することによって世論喚起を促進できる。このような活動が世論の変化を促し、結果として為政者の方針を変える可能性を高める。更に国連に求めるのは一般国民にとって縁遠い存在である現状の改善だ。世論を喚起し得るよう、一般国民から近しい国連でなければならず、そのために、一般国民への直接の情報発信、NGOなどの団体を通じた情報発信を強化する必要がある。NWATの条文に核兵器を廃棄する詳細なプロトコルと必要な査察を加えたのは国家間の不信を払拭するためであった。この不信は、いよいよ核兵器を廃絶するという特定の時点だけでなく、核兵器廃絶後も他国が再核軍備を行う恐怖を原因として継続するであろうし、不信を原因としてそもそもNWAT加盟を逡巡する国もあるだろう。そうであるならば、国家間の信頼を得るための手段として、査察だけではなく、様々な対策を実施することがNWAT発効の可能性を高める。例えば市民通報制度の導入が有用である。特に重要なことは核技術を専門とする科学者の役割である*14。核兵器の製造には巨大な設備だけでなく、多数の科学者の参加が必要となる。核兵器製造に参加した科学者の誰かが国際機関にその事実を通報するなら、査察の精度は飛躍的に高まる。この場合重要なことは秘密裏に通報できる環境整備と通報した個人に対する不利益取扱の防止である。科学者に対す*12「核兵器使用と国際人道法」篠田英朗広島大学平和科学研究センター*13「核兵器・核実験モニター319-20」NPO法人ピースデポ*14「あなたがたの人間性を心にとどめなさい」ジョセフ・ロートブラット1995年ノーベル平和賞受賞講演757