ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

取り敢えず当面の成果を挙げることに傾注する性向が見える。成果を早く具体化することの重要性は否定しないが、今までの取組みでは核兵器廃絶に至る道筋が見えない、というのが論者の率直な観察である。ところで、2009年4月オバマ米国大統領は米国大統領として初めて「米国が核兵器のない世界の平和と安全を追求する決意であることを」表明した。論者のここまでの主張を否定する素晴らしい決意である。しかし、オバマ大統領が当演説で同時に認めているように、核兵器のない世界は「私(オバマ大統領のこと)の生きているうちには達成されない」長期課題である*7。また、演説で表明された具体策も核兵器問題に資するものばかりで、直接的に核兵器廃絶に結びつく方策は「核兵器製造に使用することを目的とする核分裂性物質の生産を、検証可能な形で禁止する新たな条約の締結に努め」ることのみである。オバマ大統領の後任者はこの演説で表明された決意を代々受け継いでくれるのだろうか?(オバマ大統領自身もノーベル平和賞授与式での演説で核兵器のない世界の実現意志を早速後退させてしまったとの印象を論者は受けた。)上述したように核兵器問題と核兵器廃絶は異なる課題である中で、核兵器廃絶に向けた具体的方策があまりに貧弱ではないだろうか?一国の指導者として踏み込んだ発言ではあるが、核兵器廃絶の実現には不十分であると論ぜざるを得ない。第三章核兵器廃絶条約を実現させるための条件当章では今までの議論を踏まえ、核兵器廃絶を目指す最終形を核兵器廃絶条約(以下、NWATと称す)*8の実現と考え、そのために必要な条件を検討する。核兵器廃絶とは偉大な理想論である。しかし、理想論をいくら検討しても実現可能性が高まるわけではない。大雑把な理想論が精緻化された理想論に変わるだけである。そのため、理想論を実現するために現実にどのような条件が必要であるかを最初に検討する。まず、NWATは全ての国々が締結する必要がある。これがNWATの実効性を担保するために第一に必要な条件である。先述したように核保有国が核兵器を廃絶する意思が無752*7オバマ演説の訳文は「核兵器をなくせるか?」を引用(以下、同じ)*8 核兵器禁止条約は過去にも検討されている。有名なものに核兵器廃絶を求める国際NGOのコンソーシアムによって起草された「モデル核兵器禁止条約」がある