ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回最優秀賞政者はそう考えている。そのため、従来、成果を挙げた取組みは核兵器問題であり、それは核兵器廃絶とは異なる課題である。核兵器廃絶問題はそのことだけのために独立的に取組むべき課題であり、核保有国にその意思が無い中では、核保有動機を踏まえて方策を検討する必要がある。第二に核兵器問題は国内事情の影響を受けるということである。自国の利益増進に責任を持つ立場にある為政者は自国の安全保障問題、経済問題などと核兵器問題を矛盾の無い形で解決していかなくてはならない。すなわち、国内政治状況としての安全保障問題等と国際外交としての核兵器問題は相互に影響し合う状態にあり、恐らく全ての国にとって自国の安全保障等を優先して政策化し、その後にこれと矛盾しない内容で核兵器問題を検討するであろう。これは時系列的に観察すれば、核兵器問題への対応が国内事情の変化によって、あるいは、政権が代わることによって(為政者の政治的支持基盤やリーダーの資質も変わる)変更されることを意味している。要するに核兵器問題に対する方針は振れるのである。オバマ米国大統領演説については後述するが、政策転換は彼が初めての例ではない。例えば、クリントン政権時代、民生プルトニウム利用は奨励されなかったが、ブッシュ政権に代わり、高レベル廃棄物問題、エネルキー・セキュリティ確保などを背景に原子力政策は転換された*6。イラン核問題についても、内政が混乱する中で欧米との対決姿勢により国民の関心を外交問題へ逸らそうという意図があるとの報道もある。最後に核兵器廃絶に向けた取組みはその最後の一歩が最も困難であるということだ。一国を除き世界の全ての国が核兵器廃絶を達成した状況を想像してみよう。この例外である一国が他国に比し圧倒的に有利な軍事力を保持することになる。核兵器廃絶問題とは一国でも同意しなければ実現しない問題である。現時点において全ての国々が核兵器廃絶に同意することは困難であるから、今、このことを問うなら、核兵器廃絶は実現しないという答えしか導き出せない。このような性質の問題を解決するためには最終的に全ての国々が同意するまでのシナリオを描いて、そのシナリオに沿って一歩一歩状況を進展させていくことが必要である。ところが、今までの取組みを観察すると、所与の妥協を行いながら、*6「米国新政権における核不拡散政策」日本原子力研究開発機構千崎雅生2009年3月751