ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

歩した結果の条文である。核保有国の軍事行動を完全に制約する条約は成立困難であることの事例である。核保有国に核兵器廃絶の意図が無いのであるなら当然の結論だ。最後に二国間交渉による核兵器削減努力を見てみよう。この分野において代表的な取組みは米露による軍備削減交渉である。冷戦下1972年の第一次戦略兵器制限条約(SALT1)を端緒に継続的努力を積み重ね、ピーク時には米露で約65000発の核兵器(世界では約70000発)を保有していたものが、現在では約25000発(世界では約26000発)までに削減された*5。更に2009年7月の両国首脳会談では戦略核弾頭の上限を削減するなどの対応が合意された。これらも勿論歓迎すべき成果である。しかし、括弧内の数字との比較で分かるように米露は他核兵器保有国に対し圧倒的量の核兵器を保有しており、この状況は削減後も変わらない。核軍備面での優位性を維持した上での削減交渉であり、核兵器廃絶に向う取組みではなく、軍事費を二国で同時に削減する経済的(国内政治課題解決)取組みと解釈されても仕方ない内容と言える。核兵器廃絶に向う取組みであれば、まず、仏、英、中と同じレベルにまで削減することがスタートであるべきだ。第二章従来の核兵器問題への取組みが明確化していること第一章で論者は核兵器問題に関する過去の取組みとそのレビューを一部ではあるが重要かつ典型的な事例について実施した。当章ではそれらのレビューから明確になった事項を三点提示する。当論文では割愛したその他の取組みでもこれらの事項は当てはまる。第一に核兵器保有国に核兵器廃絶の意思は無いし、廃絶の強制もできないという事実である。核兵器は一発の使用でも深刻な被害を発生させる兵器であるので、核兵器廃絶と核軍縮などその他の様々な取組みは明確に異なる課題として取り扱う必要がある。(例えるなら、10と100は量的な相違であるが、0と10は質的相違である。)NPTが核兵器保有国と非保有国を現状のまま固定化する精神を含有することは核兵器廃絶意思の無いことの証左であるし、バンコク条約の例で分かるように核保有国はその影響力を様々な場面で行使している。核保有国にとって核兵器は必要な武器なのである。少なくとも核保有国の為750*5「軍縮をどう進めるか」黒沢満大阪大学出版会及びhttp://kakujoho.net