ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
70/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている70ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

ることになるため、各国家は自発的に国際協調政策を選択することになる。以上二つのゲームは、近代共時システム内におけるゲーム、すなわち「世代内ゲーム」である。それに対し、第三の「世代間ゲーム」は、利害当事者として現在世代以外の世代が含まれるゲームである。ただし、当然のことながら、他世代という現代世界に存在しえない主体がどうして利害当事者となりうるのか、という疑問が生じる。第三の「世代間ゲーム」の意味は、他世代が実体的な主体として存在するということではない。地球環境問題をめぐる国家間ゲームにおいて、しばしば全ての参加国の利益を制限ないし縮小する決定がなされており、そうした現象を説明するのに、他世代という架空の主体を想定することが妥当であるというに過ぎない。「エネルギー」が観察可能な実体概念ではなく、「熱の発生・移動」という現象を説明する理論概念であるのと同様、利害当事者としての他世代は、実体概念ではなく理論概念なのである6。この理論概念としての「他世代」を想定することが可能な現象には二つある。ひとつは、実体をもった主体としての国家が、現在世代全体の利益を損なうような意思決定を行っている場合である。現在世代が合理的な決定を行う限りにおいては、このようなことは生じ得ない。それにも関わらずこうした環境規制の意思決定が成立するのは、そこに将来世代の利害に対する配慮が働いているからである。「将来世代に資源や環境を残すために、我々の世代全員が一定の負担をすべきだ」といった形で、他世代の利害はシステム内に組込まれている。もうひとつは、国家とは別の主体が他世代の利益代弁者として行動する場合である。近代主権国家システムの担い手たる主権国家を通さずに、国際的な決定に関わろうとする主体がそれに当たる。代表的なものは、再通時化国において「はみだし現象」をもたらしている国際環境NGOである。686実体概念と理論概念については、大森正蔵『時間と自我』(青土社、1992年)178-200頁。