ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
687/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている687ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第25回優秀賞歴史学者のアイリフは、アフリカのような土地豊富社会において、貧者とは、豊富な土地を利用するのに必要な労働にアクセスできない者、即ち「働けない者」であるという(Iliffe 1987)。拡大家族の相互扶助の網の目から何らかの理由ではじき飛ばされ、且つ労働できない者(障害者、高齢者、年少者)が、土地豊富社会における貧困層のコアを形成する(峯2002)。アイリフはから外れた人々に対する持続的な制度的なケアや組織が、アフリカ社会の内在的なシステムとしては育ってこなかったと主張する(峯2002)。低所得国では、社会保障制度が不十分で血縁関係に頼らざるを得ない、職業や社会階層による利益団体が発生しにくくエスニシティが利益団体の基盤になりやすいという理由から、民主化は困難であるという指摘もある(Winders 1998)。どのような理由で、システムからあぶれる者が生まれるのか、システムが十分に育ってこなかったのか、あるいは失われてしまったのかについては明らかではない。絵所は、社会関係資本としての信頼は、無から生まれるものではないが、伝統の直延長上に成立するものでもないという(絵所2001)。そういう意味では、新たな仕組みを作り出すことができる素地は十分にあろう。しかし、気が張っている時だけ実行できるような制度ではなく、様々な生活のレベルにいる住民がアクセスしやすい生活合理性に沿った社会関係資本が必要であろう。地域共同体の住民が、真に望むのであれば現在のアフリカに適したかたちで相互扶助のシステムを構築していくことは不可能ではないのではないか。峯も、共同体の庇護の空間を外延的に拡大していくことで、極端な貧者もいない極端な富者もいない平等な社会を生み出すことはできないかと提案する(峯2002)。注意すべきは、地域共同体の慣習経済を、インターリンケージなど何らかの手段で世界システムとつながる必要性がある際に、政府など上位にあるアクターが、市場経済と慣習経済の補完的調整を行う際に、石川(石川1996)が言うような「命令経済(統制経済)」を実施することになれば、各地域の実情をよくよく吟味した上での判断がなされなくては、アフリカにおける構造調整政策の批判のような結果が起こってしまいかねない。685