ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

3.各レベル(単位)の調整機能としての国連(1)連帯の様々なかたちスウェーデンのカールソン元首相は、「経済効率自体は目的ではなく、究極的な目標である国民一人一人の福祉を増進する手段に過ぎない(岡沢1991)」と述べた。それぞれの国の、それぞれの地域で、そこに住む人々が持続可能で、住民一人一人の福祉を増進していくための努力や工夫が求められている。グローバルな規模で共有すべきルールももちろん尊重されるが、地域に生活する人々がその土地に適した持続可能な方法で自然や伝統文化を継続していくことが可能であるならば、地域共同体の価値というものがもっと尊重されてもよいだろう。例えば、石川が指摘するような、「自分の幸福だけでなく仲間の幸福も祈念して活動するように、各人の行動ルールと活動成果の分配ルールが慣習的にきめられ、それを通じて各人が相互に依存しあっている経済(石川1996:15)」がある。世界各地の人類学的研究からは、地域共同体の安定した生活を保障するために伝統的に築き上げられてきた相互扶助制度を発見できる。例えば、スウェーデンは「連帯(Solidarity)」のもと、全ての住民は地域共同体を形成する対等な構成員と見なされ、お互いに敬い、自分たちが共同で作り上げた社会のルールを守り、自らも社会の中で平等に扱われることを期待する(馬橋1997)。親族の特別な絆というものが、連帯を支える基礎である人間関係社会もあるが、スウェーデンのように、よい統治と法律により担保される「権利ベースのアプローチ( Rights-based approach )」により支えられている社会もある。権利ベースのアプローチは北欧諸国等を中心に見ることができるが、開発途上国とされる地域において確認される血縁・地縁の人間関係、アソシエーションなど多彩な枠組みを軸とした伝統的な資源管理、分配の方法を通して持続的生活を組み立てていく「慣習経済(高橋2002)」のような社会もまた「一人一人の福祉」を実現するためのひとつのかたちであることは間違いない。684