ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

域共同体が地域の中で伝統的に育んできた社会の仕組みや価値観を必要以上に損なうことなく、世界システムの価値体系との間にどのように「つながり」方を構築していくのかである。「つながり」方のひとつの可能性として、1992年のマーストリヒト条約でも合意された「補完性原理(the Principe of Subsidiary)」の適用が考えられる。完結性の高い共同体であっても、グローバル化された社会において、閉じた共同体を維持することは現実的な選択とは言えず、他の社会と相互依存の関係を結ぶことは合理的である。補完性原理は、元来カソリック教義の中で個人、家族そして地域社会との関係理念を示した考え方から発展したものとされる。そこでは、例えば極めて高い自治性を持つスウェーデンの地域組織コミューンのように、小さい単位の組織の自律的な努力を前提に、上位にある組織との間で、相互関係の結び方、補完方法に関する理念的な合意を補完性原理と解釈する。補完性原理には、より大きな集団は、より小さな集団が自立的に目的を達成できる時には無闇に介入してはならないとする限定的な「消極的な補完性」と、大きな集団は、小さな集団が自立的に目的を達成できない時には、介入しなければならないという「積極的な補完性」というスタンスがある(遠藤1999)。この原理は、欧州共同体という比較的文化的な背景に共通性の高い地域の上で成り立ったものであり、アフリカの地域共同体の中で、類似の原理を機能させるためには、中立的な立場でアフリカの社会に親和的な制度を調整していけるかどうかにかかっている。この中立的な立場を確保し、地域共同体、国家、広域圏、地球規模の「つながり」を調整する機能、各レベルを取り持つ「文化の翻訳者」の機能を期待できる機関は国連であろうと思われる。落合は、ナイジェリアに関して述べた論文の中で「欧米社会においては、民主化を支える最小基本単位は集団ではなくあくまで個人であると見なされる傾向が強い」と述べ、そこでは「民主化は、原理的には個人の自由の保障と矛盾しない」が、地域共同体では、「集団を単位とする社会が根強く残り、個人の尊重と矛盾することがある」と説明する(落合2004)。この落合の報告からも、アフリカにおいては社会を構成する単位が問題となって680