ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

社会運営において、伝統、先祖、家系、子孫など、世代を超えた時間軸上の要素が重視されている時、その社会を「通時的社会」ないし「通時システム」と呼ぶことにする。具体的には、近代以前の伝統的社会を指す。一方、世代を超えた時間軸上の要素よりも、同一世代内の関係が重視される社会を「共時的社会」ないし「共時システム」と呼ぶことにする。念頭にあるのは近代社会である。近代化は、通時的システムの共時化に他ならない。個人主義、基本的人権の拡大、人民主義の確立、選挙権の拡大、議会制度、近代司法制度、産業革命、経済発展、といった近代社会の特徴は、いずれも共時化の産物と見ることができる。これらはいずれも、過去の影響力を極力排除し、同じ時間を共有する同一世代内のみで社会運営を行おうとする傾向をもっている。これは、近代西欧において、基本的人権や選挙権が新興ブルジョワジーの権利主張として登場し、伝統的な支配勢力と対立しながら獲得されていったことに関係している。共時化作用は、過去世代からの制約を取り払うのみならず、進歩主義と結びつくことによって、今度は未来世代からの制約をもなくしていく。科学技術の進歩、自由な経済活動、生産力の飛躍的増大を特徴とする産業革命は、「将来世代は現在世代よりも豊かになる」という、進歩主義を生み出した。これは、現在世代が無制限に経済活動を拡大していくための、基礎となった。現在世代が新たな技術を開発し、人口を増大させ、生産を拡大することは、将来世代の利益にもかなうものとされた。これによって、将来世代に対する現在世代の責任の問題が回避された。こうして、近代社会は、時間軸上の結びつきを最小化し、同一世代の利益を最大化し、同一世代内でのみ社会を運営する「共時システム」となった。しかし、資源・環境問題の重要性が高まるにつれて、近代共時システムは動揺することになる。例えば、化石燃料が有限であり、エネルギー消費をこのまま続ければ枯渇するという事実は、現在世代の消費が将来世代の消費を奪いかねないことを意味する。進歩の発想によって利害対立がないものとされてきた現在世代と将来世代の間に、ゼロサムゲーム64