ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第24回佳作の段階である。森林保全の分野で国際的法的枠組みを作る際の最大の争点は「熱帯林保有国(途上国)の森林保全に伴う経済的損失を誰がどのように補填するのか」である。熱帯林の多くは途上国に存在し、木材はグローバル経済化において貿易量で考えれば石油に次ぐ品目であることからも、木材の輸出によって国家財政を成り立たせているような国家にとって森林保全(=主権の制限)は死活問題である。また、途上国の国民の多くは燃料に薪炭材を用いていることも忘れてはならない。そのような国にとっては森林を保全することの経済的な損失を補填するシステムが存在しない限りにおいて、森林保全のインセンティブが生まれないのは必然である。これに関連して、森林原則声明のパラグラフ10には「造林、再造林及び森林減少・森林及び土地の劣化の抑制等を通じ、途上国がその森林資源を持続的に経営、保全、開発することを可能とするために、新規かつ追加的な資金が途上国に供与されるべきである。」と記されている。途上国に対する資金及び技術の移転の促進は、地球サミット以降も国際的な議論の中心的な論点の一つになっているが、世界的な経済の停滞やODAの実効性に対する先進国市民(納税者)の厳しい目などを背景に今後も大幅に増大することを見込むのは非現実的であろう。それに加えてODAは国益が絡む戦略的なものということもあり、中立性が担保される国際的な枠組みであるUNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change/気候変動枠組条約事務局)やGEF(Global Environment Facility/地球環境ファシリティ)に各国が資金を拠出し、そこから熱帯林を保有する途上国に対して追加的に資金提供を行うという形をとるのが望ましいのではないだろうか。途上国の木材は主に先進国で使用されていることからも、先進国が中心となって資金拠出を行うべきである31。また、先進国は京都メカニズム32の一環であるCDM(Clean Development Mechanism/クリーン開発メカニズム)などを通じて途上国に対して技術協力・支援を積極的に行っていくべきである。もちろん先進国自身も自国の森林を保全する義務があることは言うまでもない。とはいえ、「援助の実効性を高める上でも、被援助国における適切な政策の策定・実行や『ガバナンス33』の確立が不可避である」という認識が先進国を中心に確立しつつあり、途上国サイ31アメリカは先進国のみが追加的資金を拠出することに反対している。32 排出権取引(炭素クレジット)を行えば、森林保全というグローバル経済下における市場での価値がゼロに等しい外部効果を内部化することも出来る。33 個人と機関、私と公が、共通の問題に取り組む多くの方法の集まり。相反する、あるいは多様な利害関係の調整をしたり、協力的な行動をとる継続的なプロセスのこと。625