ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第24回優秀賞第二は、削減の基準年の問題である。京都議定書では、1990年が削減の基準年に設定されているが、これにより削減難易度に格差が生じている。たとえば、1990年にGHG排出のピークを迎え、その後減少に転じていった国々にとっては削減目標の達成が非常に有利となる。逆に日本のようにエネルギー効率が1990年時点ですでに高い国にとっては不利となり、「1990年の設定は日本外交の敗北」という声すらある。具体的に1990年がどのような年だったかをみると、1ロシア・東欧の経済崩壊が起きる直前、2イギリス・ドイツにおける大幅な燃料転換が始まる直前、3東西ドイツが統一され、旧東ドイツ地域におけるエネルギー消費の減退が生じる直前、という3点の理由から非常に稀有な年であることがわかる。ロシアは1990年以降の経済活動の落ち込みと、CO 2の排出量が大幅に減少したことにより、90年比プラスマイナス0%という有利な削減目標値が課された。また、イギリス・ドイツも1990年以降の石炭から天然ガスへの燃料転換により削減目標達成が有利な状況にある。更に、地域全体で削減義務を負っているEUは近年の東方拡大により、排出量の減少した東欧諸国を取り込むことで、EUとしての削減目標を達成しやすくした。反面、エネルギー効率が1990年時点で既に高いレベルにあった日本や、冷戦終焉後に軍事技術の民用への転換を加速し安定的な経済成長を続けてきたアメリカにとっては不利となり、平等でない。最後に「ホットエア」の問題がある。「ホットエア」とは、相当の余裕をもってGHG削減目標の達成がなされる場合の余剰分をさす。ロシアは90年比プラスマイナス0%削減となっているが、実際のGHGの排出量は1990年初頭の19億8410万トン(CO 2換算)から、2004年には15億2410万トン(CO 2換算)に減っているため、約1.3%分の余剰が生じていることとなる。この「ホットエア」が、京都メカニズムを通じて他の附属書Ⅰ国に売却されるものと見られており、「買い手側の削減努力への意欲を失わせ、実際の排出削減を伴わず、地球環境にとって好ましくない10」との批判もある。10関総一郎「京都議定書の成立と交渉構造」46p『地球温暖化問題の再検証』東洋経済2004.2585