ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第24回優秀賞る環境問題の改善につながることを意味する。第三の理由は、温暖化問題が、環境のみならず紛争や貧困にも影響を与えるためである。国連開発計画(United Nations Development Programme:UNDP)『人間開発報告書2007』は、2000年~2004年の間に気候災害によって毎年2億6000万人が被害を受け、その98%以上が途上国に集中していたと指摘している7。同報告書によれば、温暖化が進むと、貧困だけでなく、健康や教育など各開発分野で前例のない後退を招きかねないとしている。具体例として、1サハラ以南のアフリカで干ばつ被害は2060年までに6000万~9000万ヘクタール増加し、2 2080年までに干ばつや気温上昇により、新たに最大6億人が栄養失調になる、3氷河の後退や降雨パターンの変化で、さらに18億人が水資源不足による「水ストレス」にさらされる、4洪水や台風の影響により、沿岸部や低平地で最大3億3000万人が避難を強いられる、5最大4億人が新たにマラリアの危機に直面する、ことが挙げられている。世界食糧理事会のメネスタブ・へイル顧問も、COP13において、「干ばつや洪水といった異常気象の多発は、紛争の多発やマラリアなどの病気の流行とともに、途上国の農村部の暮らしを不安定なものにしている。特にアフリカ諸国は、環境破壊と食糧生産の減少、貧困の悪循環に陥っている」と述べている。そして、第四に、地球温暖化問題が、各国にとって重要な外交問題へと発展しているためである。過去の歴史を振り返ると、環境問題が注目されたのは、デタント期の国連人間環境会議(1972年)や冷戦終焉後の地球サミット(1992年)のように、安全保障問題が下火になり、好景気で余裕のある時という傾向がうかがえる8。景気に影が差し、国の重要案件が再び政治や経済に移行すると、環境問題は議題として取り上げられなくなる。いわば、舞台の幕あいの間奏曲のような存在であった。国連人間環境会議の後はアフガン戦争、地球サミットの後はアメリカ同時多発テロにより、環境問題は二の次となった。この流れを受ければ、世界的不景気やテロとの戦いが解決していない現在は、環境問題にとっ7 UNDP“Human Development Report 2007/2008”8蟹江憲司「気候変動問題を巡る政治力学」『外交フォーラム』2008.1579