ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第24回最優秀賞雨条約である。この条約では、8つの議定書(SOx議定書、NOx議定書など)があるが、最初に合意されたSOx議定書では規制対象が大工場に限られていたが、運輸部門が参加し、また、NOx議定書では、農業部門が参加し利害関係者が広がっており、条約の効力が大きくなっていることである。これがもし京都議定書のように包括的交渉になると、複数の物質が、運輸、農業など広いセクター間で議論されることになり、パッケージ・ディールが行われることになる。「包括的取り組み」が実行されれば、SOx削減に関する合意は、遅々として進まなかったであろう。欧州の酸性雨条約は、価値を共有する欧州で実施されたからこそ、成功したのであり、これが世界規模での複数の物質と複数のセクター間の交渉となると、成功は難しかったであろう。さらに注目されるのが、G8グレンイーグルス行動計画とアジア太平洋パートナーシップ(APP)である。G8やAPPの最大の特徴は、問題の捉え方をエネルギーシステムの変革と捉え、そのための技術開発普及と効率的な経済開発を対策の主眼とする。技術は、万国共通の関心事項であるので相互利益のための国際協力が可能となる。さらに、発展途上国は省エネを通じて経済効率を上げることが開発にとって重要であるため国益にかなう枠組みになり、各国間の信頼関係も醸成されてくる。京都議定書では、地球全体の排出量の規制と捉え、対策は国別に割当てをする仕組みであった。この結果、自国の排出枠を増やし他国のそれを削減する枠の奪い合いが常態化し、交渉レベルで相互不信となり建設的議論がなされなかった。こうした技術開発普及のための国際的枠組みを国益の一致する国同士で進めていくことができれば、京都議定書のように各国が敵対的に行き詰まることなく交渉を弾力的に進めることができる。国連の枠組みに沿った多国間協力の形をとらず、こうした自主的合意をベースとした多様な条約アプローチが、世界中に広まれば地球環境対策のシナジー効果は高まっていくであろうし、新たな枠組み構築に向けた求心力にもなりうる可能があるであろう。569