ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回佳作ドの大女優の提唱が呼び水となって多額の援助資金が集まったのは何故だ?)恐らく主因の一つは、世界の人々が未だに“国家幻想”を捨て切れないからだ。幻想の具現者としての彼ら政治・外交のプロが、その幻想からの脱却を説いても説得力を持ち得ないのは当然だろう。先進国を中心に「小さな政府」が言われ、「民間でできることは民間で」「自助努力を」の大合唱がこだましている。政府(国家)の機能が縮小に次ぐ縮小を繰り返す中で、残された聖域は「外交」「防衛」等々、これもお定まりの分類法だ。でも、考えて欲しい。くどいほど述べてきたように、今や国民国家概念は従来の捉え方に拘る限り風前の灯である。外交、防衛もパワー・ポリティックスの発動機関として国家を捉える限り、その使命は決して無条件に付託されるものではない。どうするか。「国力」を捉え直すしかないだろう。筆者にも残念ながら未だ成案はない。若干触れたソフト・パワー、あるいは「強制でなく、他国から信頼され、協調行動したくなるような磁力を持った国」といったあたりが21世6紀型国力の要素の一つになるだろうか。重要なことは、他国の信頼、協調行動を引き出す磁力の源は決して国家・政府部門だけではない、従来型の国家を構成してきた全成員が発生源であることだ。個人であるかもしれないし、国家内の地域共同体、NPO、NGOあるいはEUレベルの国際共同体であるかもしれない。それら新しい国家の磁力源が国際舞台に登場して初めて、国家幻想としての核の政治力・外交力は、例えば「経済的に割に合うのか」式の市場の論理・経済の論理の洗礼を受けるだろう。従来型国力概念から判断すれば、以下のロジックは許容されるかもしれない(もちろん、ここでも正義の視点、道義的な観点は問わない)。つまり、たとえ国民の一部が飢えに苦しむ状態にあっても、いわゆる“開発独裁”7的な手法で一部のエリートにあらゆる権力と富を集中して最短コースでの国家建設の実をあげ(その手法の一部に核兵器の保持が選択肢として含まれる)、国際社会が当該国の存在を認めた段階で社会的な再分配機能を働かせるという手法である。国力概念の再定義が求められている現在、核の存在を含め6NIRAによると、現代の国家は「福祉国家」「市場国家」「国際国家」の3つの顔を併せ持っている。これらの目標を達成する「総合国力概念」として、内なる力としての「市民生活向上力」「経済価値創造力」、外への力として「国際社会対応力」を挙げている。7 発展途上国で急速な近代化を達成するために官僚・軍部と結びついた少数指導者による強権的な政治支配体制。権威主義体制の一種で、軍事エリートとテクノクラートが指導層を形成、ナショナリズムと反共主義を鼓舞しながら、経済発展とそれによる政治的な安定を目指す。1960年代以降、ラテン・アメリカ、アジア、アフリカの途上国でしばしば見られたが、その成果は一様ではない。487