ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回佳作核拡散は地球環境問題である-日本は経済貢献通じて新しい国力概念を提示すべき※文中敬称略上村千明1.高坂正尭の遺したもの国際政治学者であり、「現実主義者の平和論」などで知られる故高坂正尭は生前、主に通俗的平和論をメイン・ターゲットに、国際関係の基本認識を問い直す作業を続けた。例えば『国際政治』の中では、国際関係で働く力を「武力」「利益」「価値」の三体系に分類し、これまでの平和樹立への試みが何故失敗してきたのかを、理論・事例を基に分析している。結論としては、平和への確かな道が存在しないことが力説され、当面、「正義」の問題を棚上げして「武力の闘争」のみを捉える対症療法的、現実主義的態度の必要性を訴えた。ここは高坂理論の現実妥当性を吟味する場ではないが、仮に核拡散防止問題に彼の理論を当てはめたらどうなるか吟味したい、との誘惑に駆られる。『国際政治』の中身に触れてみよう。彼は以下のように指摘する:平和論はあまりにも単純にものごとを考えすぎるという誤謬を犯してきた(例えば戦争の原因をある特定の勢力に求める善玉・悪玉論。武器さえなくなれば平和が訪れる、という唯武力史観等など)。戦争がなくならないのは、人間がそもそもそれほど利他的でなく、賢くもないからだ。そうした人間観に立つと、我々は戦争をすぐになくすような特効薬を持っていないことに気付く。そうであれば、今求められるのは対症療法に徹するという現実主義の態度である。平和論者はすべての人間が強い意志を持てば、軍備をなくせると思っている。現実主義者は、大方の人間は聖人ではないのでそれは期待できない。凡人でも目指せる平和を考え477