ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

て有利な部分(核保有の既成事実化・技術の進歩によるミサイル脅威増大)もあることから、何らかの報償を梃子に現状の要求より後退した合意を図る可能性はある。ここで、アメリカの政策目標の大小と相互関連性を検討するために、アメリカにおける北朝鮮問題とイラク問題のリンクを明らかにせねばならない。そのリンクとは、ひとつには、WMD保有国(と思われていた)に対する対応の違いの問題であり、二つめには、北朝鮮問題の解決に熱意を抱いてはいないが強く敵視するブッシュ政権が、イラク戦争の秘密準備段階で目くらましに利用したという問題である。イラク戦争に突入する直前の2003年の2月、アメリカの議会では民主党議員を中心にイラク戦争の必要性に対して疑義を呈し始めていた。2月5日のブッシュ大統領と有力議員との会合で、民主党下院院内総務のナンシー・ペロシはイラク戦争が脅威を排除する最善の策かどうかに疑義を呈しつつ、ブッシュ政権に大量破壊兵器全体を見据えた世界戦略がないこと、北朝鮮は核兵器を開発していることが明確なのにイラクのみを攻撃することの正当性について指摘した。カール・レヴィン上院軍事委員会委員もWMDの存在について情報が不明確だと疑義を呈した24。このような疑問はもっともなものであったが、ブッシュ政権にとってイラク戦争はすでに決まった問題であり、政策の最優先課題であった。そのため、北朝鮮の核危機は文字通り面倒な問題であったのである。北朝鮮問題とMD問題との関連も指摘しうる。ブッシュ政権では、クリントン政権と比べてMDの導入問題に関しては非常に積極的な姿勢を見せている。9.11直前に削られたミサイル関連予算が9.11直後に元の値にまで回復されたことに見られるように、対外事情はブッシュ政権のMD政策に味方していたが、その後を通じて北朝鮮問題はある程度MD推進に貢献してきた。上院軍事委員会等を中心に、議員による北朝鮮核ミサイルとそれへの対処に関する質問が相次いでいる。国益には反するが、北朝鮮問題の放置はある程度、政権の政策に対する正当性を獲得してきたのである。それが、時の利益が政権にとってある程度存在するという主張の論拠となりうる25。45424Woodward(2004),pp.307-30925 外交問題としてはイラクが最優先課題であり、現状でもイラクで手一杯の観があり、北朝鮮との合意に対する条件の要求水準が非常に高いせいもあって、現状の膠着化は政権には有利である。しかし潜在的には、北の技術進歩や核開発進行による脅威の増大は米国という国家にとって不利な結果をもたらす。