ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回優秀賞ク戦争への準備へと政策を立てていくブッシュ政権にとって北朝鮮は頭の痛い存在でありつつも、できれば押し込めて忘れておきたい存在であったといえよう20。北朝鮮政策を動かしたり資源を割いたりしたくないからこそ、ケリーにはHEUの指摘と追求以外のマンデートは授けられていなかったのである21。北朝鮮が認めたことは、全ての人にとって驚きであった。朝鮮半島への軍事オプションは、そのようなわけで真剣に検討されていたとは言いがたいが、2001年8月上旬には、ラムズフェルドが朝鮮半島の戦争計画提出を軍に要求しており、数年前の時代遅れなもので、北朝鮮が核を持っているかどうかの想定も曖昧で大規模すぎる戦争計画だとこき下ろし、見直させていることも見逃せない22。9.11テロ後のブッシュ政権は、大量破壊兵器の拡散防止の必要性をクリントンよりさらに強く意識している。アメリカは、ミサイル防衛(MD)も含め、他国と比べ一段上のフェーズ(=いかなる攻撃も通用しないレベル)に移行しようとしており、北朝鮮のような政権は転覆するか、核への道をしっかりと閉ざすしかないとの結論を持っていると考えられる。したがって、枠組み合意の復帰ではなくより厳しい条件を求めるであろうし、二国間協議には応じにくいだろう。おそらく、過去の核兵器製造よりも核凍結と査察に関して厳しい態度をとるだろう。しかし、合意できないからといって武力攻撃のオプションが自由に取れるわけではなく、イラクと財政赤字に縛られて経済制裁がせいぜいではないかと考えられる。したがって軍事となると、前クリントン政権と比べてどこまで政策に幅が異なるかについては、分析上注意が必要である。クリントン政権が真剣に限定的空爆や制裁を検討したことからも、ブッシュ政権の政策はそこまでクリントン時代から比べて異なるものではない23。イラクと比べて北朝鮮にはアメリカは戦争のメリットが少なく、時間をかけるほど北にとっ20 Mann (2004) p.332.ブッシュ大統領の2002年年頭教書の「悪の枢軸」発言で、北朝鮮は名指しされるが、その背景は対イラク問題があった。イラク戦争計画を秘密裏に進行させつつ、フセイン政権と9.11やWMDとの結びつきを明確に主張したい政権の思惑として、イラクのみの名指しは宣戦布告のように受け取られかねないという懸念が持ち上がり、急遽北朝鮮とイランを加えたというのだ。Woodward (2004), pp.85-89.21春原(2004)、404頁。22Woodward(2004)pp.31-32.23 本稿は、米国ブッシュ政権中枢部の北朝鮮に対する関心の不足が北朝鮮に対する現状の膠着化を招く一因であるとの立場に立っているが、クリントン政権時にも同じ関心の不足の構造は少なくとも初期には存在していたこと、両時代を通じて、朝鮮半島の軍事攻撃オプションが韓国の破壊と大量の死者(米軍兵士を含め)につながることから、更なる危機のエスカレーションが北から惹起されない限り、軍事的解決の可能性(1994年当時を含め)に対しては懐疑的である。(ここで言う軍事的解決とは、限定的空爆よりも大規模な軍事行動を指す。なぜ、限定的空爆を区別するかといえば、ペンタゴンやホワイトハウスのしばしば合理的でない意思決定によって、「ばら色の解決策」がとられる可能性は否定できないからである。ばら色の解決策とは、全面戦争にも拡大せず、効果的に北朝鮮の軍事能力および報復能力を低下させることができ、死傷者も少なくてすむというオプションをさす。)453