ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

いう怯えなどがあげられよう。この場合、核放棄のオプションに落ち着く可能性は低いが、条件が変わることで政策目標もまた変化するので決してゼロではない。北朝鮮が、核抑止を最優先目標と定めたのであれば、HEUが露見した時点で、高い緊張度を演出した意図は理解できる。HEUプロジェクトが途上のまま発覚したので、安全保障確保のためには、即座に開発可能なプルトニウム核兵器の保有宣言が必要だったのだ。この場合、北朝鮮がアメリカから直接、国交正常化や不可侵、大型の経済援助などを取り付けられない限り、核の放棄はありえないだろう。逆に、核保有は絶対目標ではなくて交渉カードなのであると見る立場からは、米朝協議を熱望し、多国間協議に応じている北朝鮮の態度、核兵器実用化や長距離ミサイル開発能力が低いままでの保有はアメリカに対する完全な核抑止とはいえないという指摘がなしえよう。この場合、核放棄に落ち着く可能性は比較的高い。以上を検討すると、北朝鮮は核保有をメインの政策目標としているのではないかという推察が浮上する。北朝鮮がソウルや東京、沖縄を攻撃する能力を持っているだけでアメリカには大きな脅威であり、完全な核抑止が働かずとも、アメリカが攻撃を思いとどまる原因となる。北朝鮮がイラクの教訓を活かし、本気で核保有国になろうとしているのであれば、瀬戸際外交をするインセンティヴともなる。仮に、核保有宣言自体が純粋な交渉カードだったとしても、現状の膠着化が北に有利に働く以上、核放棄はスムーズには運ばないだろう19。北朝鮮は、従来ブッシュ政権が主張してきた大胆なアプローチによる国内体制から兵力に至るまでの全体的問題討議の姿勢から、核問題限定の協議へとアメリカを引きずり込むのに成功したととることもできよう。今回の北朝鮮の核問題は超大国アメリカに敵視され、放置されて不安定な安全保障の環境におかれた国の、必死のあがきであるとも受け取れるのだ。(3)北朝鮮核問題に対しアメリカにはどのような政策ビジョンがあるのかブッシュ政権は当初、クリントン政権時代の政策的「制約」を持ち越すことを好まなかった。結果的に米朝対話が途切れたまま、9.11の悲劇を迎える。アフガニスタン戦争、イラ45219 北朝鮮は核開発をする時間を与えられているし、交渉の最中にはアメリカが軍事力を行使する可能性が低いので、交渉を決裂させずに長引かせることは安全保障上の観点にも適うからである。