ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

(3)核危機のエスカレーションへの対応HEUの衝撃覚めやらない10月後半、江沢民中国国家主席が訪米し、友好ムードが強調された。ブッシュ大統領の就任直後から悪化していた米中関係は、テロ以降は回復の兆しが見えてきており、ここにきてアメリカは、北朝鮮問題の平和的解決のため、中国と協力的関係を築こうとしていた。しかし、11月になっても、アメリカでは北朝鮮のHEU問題について、「北朝鮮と直接対話をしない」ということのほかは、政府方針が定まっていなかった14。北朝鮮はNPT脱退など、危機レベルを高めていったが、IAEAは緊急理事会において、中国を含む全会一致で北朝鮮に核開発計画の即時放棄を求める決議を可決した。中国は、北朝鮮に核開発中止を求める立場を明らかにし、2月中旬には北朝鮮問題における安保理決議の可否を問うIAEA会議で賛成票を投じ、また表向きは技術的理由だが、北朝鮮への石油提供を一時中断して圧力をかけた。アメリカの仲介要請に対しても、胡錦濤体制に移行した直後の4月、北京において米中朝三者会談を行うために協力した。北朝鮮はその間も核開発を進めたが、アメリカはイラク戦争を遂行中であり、北朝鮮に関しては始めから多国間の枠組みで解決することを目指していたため、北朝鮮のそういった「脅し」に対しては、一貫して極力危機を演出しないよう努めた15。この後、奇妙なことに核危機を煽り、必死に核保有国としての「脅し」を行う北朝鮮に対し、懐疑的に対応するブッシュ政権という構図が出来上がっていく。これは第一次北朝鮮核危機の際とは全く逆転している現象である。2003年8月に中国をホストとする第1回六カ国協議が開催されて以来、現在まで断続的な交渉が続いている。完全で不可逆的・検証可能な核廃棄を求めるアメリカのハードルは高く、体制転換の圧力を感じる北朝鮮の安全保障上の懸念も消えていない。現在、北朝鮮は六カ国協議に踏みとどまる意向を明らかにしているが、交渉は依然として膠着状態にある。(4)中国の態度の分析中国は、1992年の中韓国交正常化以降、「南北間の合意がない限り北朝鮮問題には介入44814 政権内にいた高官の話では、ケリーやアーミテージ、パウエルらとラムズフェルド、ウォルフォウィッツ、ジョン・ボルトン国務次官、NSC不拡散問題担当補佐官のボブ・ジョセフらを始めとするネオコンの間に決定的な見解の相違があり、パウエル陣営は何もすることができなかったという。春原(2004)、402-404頁。15 Mann (2004), pp.345-346.