ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回優秀賞期崩壊論9などが取りざたされ、クリントン大統領の訪朝問題では強い批判と反対意見が続出した。(2)G. W.ブッシュ新政権の誕生とHEU発覚2001年1月、ブッシュ新政権が誕生した。これまでのクリントン大統領の方針に対して強い疑念を持ち、アーミテージ・レポート10などで批判してきたメンバーが多く参画した。この政権は、後の2001年9月11日、同時多発テロを受けてさらに北朝鮮などの「悪の枢軸」に対する批判、また介入を辞さない姿勢を強めていった。しかし新政権の北朝鮮政策では、米朝枠組み合意への懐疑や韓国の太陽政策に対する批判がありつつも、一貫性のある原則は窺われず、外交政策の錯綜とも言われる時期が続いていた。その原因は、政権内の穏健派と強硬派の意見対立、そして北朝鮮問題に関し悲観的でありながらもそれが優先課題として外交政策のトップに挙げられていなかったことにあるだろう。アメリカが北朝鮮との交渉の再開を発表したのは、2002年6月初めであったが、黄海での南北朝鮮の銃撃戦や、ブッシュ政権内ではケリー国務次官補の訪朝、交渉再開についての意向が統一されていなかったことがあって、予定は繰り延べられ、ようやく10月初旬にケリーが訪朝することに決まった。その間アメリカ政府内では、すでに6月時点から、北朝鮮にHEU開発プロジェクトが存在しているのではないかとの疑念が高まっていた11。ケリー帰国後の国務省では、予想しなかった北朝鮮のHEU開発の肯定を受け、対策が検討された12。実は当初、北朝鮮のこのHEU疑惑ついては公表しない旨、決定されていたのだが、記事ですっぱ抜かれることが分かり13、その前夜に国務省報道官の緊急声明という形で、北朝鮮HEUプロジェクトに関する発表が行われたのである。この声明の中で、政府は北朝鮮の枠組み合意違反とNPT違反を指摘し、重大な懸念とHEU開発計画の即時中止を北朝鮮に要求した。9北朝鮮早期崩壊論は主に北朝鮮の自壊を予測する議論である。それに対し、金正日=ミロシェビッチ論はアメリカの軍事力行使で直接・間接的に取り除く必要があるとする。10Armitage(1999).11ケリー訪朝にも参加したジャック・プリチャードによれば、米政府が確たる情報を得たのは2002年6月下旬から7月上旬であると、2003年10月31日のロンドンでのIISSにおける講演で明らかにしている。春原(2004)367頁。アーミテージの米議会での証言によれば、2000年2月に北朝鮮の開発が開始されたとしている。Panel one of theHearingsof‘NorthKorea’,Chairman:Sen.RichardG.Lugar,Tuesday,February4,2003.12マンによれば、当初、アメリカは北朝鮮がHEUプロジェクトの存在を認めるとは到底思っていなかったという。彼は、北朝鮮がHEUの存在をもし否定したならば、米政権内のタカ派にもハト派にも満足な状況を招いたであろうとする。北朝鮮がHEUの存在を認めたことで、アメリカは手を打たなければならなくなった。イラク戦争を最優先事項とし北朝鮮を放置することを選んできたタカ派にとっても、米朝枠組み合意の上に対話と交渉を積み上げて北朝鮮をエンゲージしたいハト派にとっても、困難な状況が出来した。Mann (2004) p.345.13 Barbara Slavin,“N. Korea Admits Nuclear Program”, USA Today, Octpber 17, 2002, p.1A447