ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第22回優秀賞問題が起こった地域の国々や、外交的なアセットをもつ大国などを巻き込んだ形で展開しやすい。たとえば、イランのアメリカに対する敵対感情を考えれば、アメリカが強硬な態度をとり続ける一方で英独仏が説得に応じ、かかわっていく役割分担の構造そのものに意味があるし、北朝鮮問題に関する六カ国協議は滞っているとはいえ、中国の存在が解決への有力な鍵であるという認識は正しいだろう。問題は、危機を回避し核拡散を防止するための、大国や地域の利害関係国の真摯な努力が不可欠なことである。ある国家の核保有の意思は、その国の安全保障の根幹がかかっているために、容易に断念させられない。その国の意図がバーゲニングにあるのかどうか、どこまで安全保障上のエンゲージメントが必要なのかを見定めなければ、妥協につぐ妥協と拡散、または必要以上にその国を追い詰める危険な結果にもなりうる。次章では、このような考え方に基づき、今般の北朝鮮の核問題における北朝鮮や関係各国の思惑を読み解き、なぜ解決への道が険しくなっているのかについて探ることにしよう。第二章北朝鮮核危機の解説・・・HEUの発覚2002年10月上旬、アメリカのケリー国務次官補は北朝鮮を訪れ、北朝鮮政府に高濃縮ウラン5(HEU)プロジェクトの存否を問いただした。ケリーの帰国後、アメリカ政府は北朝鮮がHEU開発の存在を認めたと発表し、北朝鮮にIAEAの査察を受け入れるように要求した。北朝鮮は査察を受け入れず、KEDOは米朝枠組み合意違反として12月分から重油の提供を停止することを決定した。それに対抗して、北朝鮮は米朝枠組み合意で封印されていた寧辺の黒鉛炉を再稼動し、再処理施設の封印を除去、2002年末にはIAEA査察官を追放して、2003年初頭にNPT脱退宣言を行った。これに伴い、周辺国やアメリカでは有事を想定する緊張感が高まった。北朝鮮は核保有を宣言したが、現在、関係国は六カ国協議を通じて北朝鮮に核廃棄を求めている。HEU疑惑浮上に始まる現在の北朝鮮核危機の内実と帰趨を理解するためには、枠組み合意の破綻がなぜ起きたのか、北朝鮮のHEU開発意図はどのようなものだったのか、北5 HEUは、U235の濃度を兵器に利用可能な90%以上にまで天然ウラン(U235濃度0.7%程度)を濃縮したものである。445