ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

(3)核拡散に対応するあるべき方向性われわれは、すでに70年代、80年代を通じ、闇市場や各国の協力により核に関する技術が流出・移転し、拡散してしまった世界に住んでいる。冷戦後、アメリカのイニシアチヴ等を通じてその収拾の努力がなされてきたが、多くの国がNPTにとどまり、また新たに加盟する一方で、ならず者国家として敵視された中東・アジアを中心とする小国が、バーゲニングや体制保持・不可侵を得る手段として核兵器を保有しようとする時代になった。インド・パキスタンなどの事実上核保有している国家の挑戦は、その国家群内で完結した核保有であるために、域外諸国の核保有を呼び起こすとは思われない4。NPTに加盟した国々の中には、すでに根本的な安全保障を達成しているために核保有のインセンティヴが少ない国や、日本のように反核の感情など、国内的要因が存在する国などがあり、核保有がすぐに広まるとも思えない。しかし、東アジアなどの緊張地域ではひとつの国の決断が連鎖を生みやすく、また安全保障の環境が悪化することで極度に核保有のインセンティヴが高まりうる。アメリカの抜本的な改革案などが、各国の不信感を増大させ、NPT体制の動揺を招いていることもたしかであるが、何もないより何かがあったほうが良い、という点においてNPT体制は存続している。アメリカの核先制攻撃オプションには脅威、違和感を覚える国々も、核保有国の核がならず者国家などに対しては有効であることは否定しがたいだろう。むしろ、アメリカの海外からの撤退の動きや軍備管理の進行が却って、北朝鮮のような国の核開発インセンティヴを生み出しがちであることも忘れてはならない。これまで期待されてきた、市民レベルでの運動と国際組織などの既存の多国間の枠組みの路線では、核拡散問題の根本的な解決が難しいが、アメリカのイニシアチヴでのみ、問題の解決が可能であるという考え方も拙速である。国家の取り組みが不可欠で、優れて政治的な問題である核拡散の防止については、既存のNPT体制などを含めた多国間の枠組みと、アメリカ、フランスなど特定の国のリーダーシップによるアドホックな試みの両方が必要となる。既存の国際的な枠組みとアドホックな多国間の枠組みとの組み合わせは、4444 Sagan and Waltz (2003), Chapter 3参照。