ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

う考え方も拙速である。国家の取り組みが不可欠で、優れて政治的な問題である核拡散の防止については、既存のNPT体制などを含めた多国間の枠組みと、特定の国のリーダーシップによるアドホックな試みの両方が必要となる。この両者の組み合わせは、問題が起こった地域の国々や、外交的なアセットをもつ大国などを巻き込んだ形で展開しやすい。危機を回避し核拡散を防止するためには、大国や地域の利害関係国の真摯な努力が不可欠である。北朝鮮核問題を見ると、イラク問題に比べた場合のアメリカの興味関心レベルの相対的な低さと、中国のような域内の重要な利害関係国の現状維持の国益、そして北朝鮮がもつ時の利益とが絡まりあい、交渉妥結が遠のいていることが窺える。北朝鮮に対しては、既存の国際組織や規範的なアプローチは役に立たなかった。ところが、六カ国協議のような、アドホックで柔軟な枠組みは、少なくとも北朝鮮を交渉のテーブルに着かせることには成功した。ただし、現状の固定化に利益を見出す国や政府の存在や、より真剣で柔軟なアプローチの欠如が、北朝鮮の核保有、そして世界全体への核拡散を防止する機運を削いでいるのである。438