ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回優秀賞「国連の意思決定メカニズムにおける中立性の限界」志田玲子はじめに国連創設60周年の年を迎え、国連改革の議論が喧しい。第三次世界大戦の防止という重い使命を負い発足した国連にとり、創設60周年は同時に、終戦60周年という別の意味合いをもつ。二度の世界大戦という戦禍に見舞われた「戦争の世紀」、悲劇の20世紀が幕を閉じ、新たな世紀に突入している現在、その成果については一定の評価ができよう。しかし、東西冷戦にピリオドを打ち、世界戦争の防止に成功している一方で、イラク、パレスチナ、スーダン等世界各地で吹き荒れる地域・民族紛争はとどまるところを知らない。これらの問題解決は、国連の主たる任務ではないとはいえ、今や、憲章第1条第1項が謳う「国際平和・安全の維持」という目的を脅かす存在であることは、論をまたない。改革議論においては、個々の国益を背負って集う主権国家の合議体という国連組織の限界、また、血で血を洗う戦争の歴史を繰り返しても、相変わらず武力闘争と決別できない人類の性という厳しい現実、そして、複雑な歴史的経緯から、容易に解決し得ないという冷徹な問題認識に立つ必要がある。本稿がとりあげる国連の中立性は、国連の諸活動の中でも特に、集団安全保障体制を支える中核的要素である。憲章の目的条項においては、上記の通り第一義的に国際的紛争の解決を実現することが掲げられるが、これは、紛争当事者及び国際世論の理解が得られる中立性が前提条件である。紛争の具体的な解決手段である仲裁や調停、和解機会の提供等の活動を成功裡に治める役割は、紛争当事者が、そして国際社会が納得する中立性なくしては果たし得ない。特定国の国益を代表したり、紛争当事者のいずれか一方に正当な理由なく有利または不利な立場をとれば、中立性は損なわれ、国連活動に対する信頼は失墜す397