ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

つまり、UNTACが紛争当事者や域外各国から信頼を獲得し、総選挙において高投票率を達成する上で中立性の標榜は不可欠の要素であったのだが、同時に、武装解除に失敗し、各会派(特にポル・ポト派とプノンペン政権)の選挙妨害を阻止できなかった場面のようなUNTACの失敗の側面でも、その失敗の大きな原因として中立性を標榜していたことが挙げられるのである。この中立性原則の持つ功罪の二面性を考慮せずに、単に国連の平和維持活動において中立性原則が重要だと主張することはできないだろう。では、中立性原則が国連平和維持活動、さらに一般化していえば地域紛争への介入の事例においてどれほどの価値をもつのだろうか。介入の正統性と関連付けながら、次に考えてみたい。3-C中立性と正統性1国連平和維持活動が変容を遂げ、失敗の事例も数多く現われる中で、UNTACが非強制・中立という価値に固執して一般には成功と評価される成果を収めたことは事実である。『平和への課題(An Agenda for Peace)』(1992)で、「平和強制部隊」という限定的な強制力をもつ国連軍の創設を提唱したブトロース・ガーリ事務総長も、そのわずか2年半後の『平和への課題・追補(Supplement to an Agenda for Peace)』(1995)ではこれを取り下げ、国連軍は中立原則と同意原則に基づく伝統的な平和維持活動に限るという態度をとるに至った。この背景には国連憲章第7章に基づいて強制力をもった軍隊を派遣し、紛争に巻き込まれてしまった90年代初期の手痛い失敗の事例と、中立・非強制を掲げて総選挙にたどり着いたカンボジアの事例がある。国連の平和維持活動は、こうした経験を踏まえて、中立・公平・非強制を旨とする伝統的なものへと回帰する傾向がみられる。だが、例えばソマリアでの失敗を引き合いに出してUNTACと対比し、「やはり国連の平和維持活動は伝統的な非強制なものであるべきだ」と結論付けるのは、早計に過ぎる。UNTACが中立性の標榜によって成果を挙げられたのは、3-Aで見たようなカンボジ374