ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

3パリ和平協定の存在さらに、UNTACにおいて中立性の外観維持がうまく機能した理由として、パリ協定という紛争当事者の合意が存在したあとの活動であったことも忘れてはならない。ポール・ディールはソマリア、ボスニア、カンボジアの3つのPKOを比較した上で、「UNTACはこれら3つの事例の中では成功と見なすことができるが、それはUNTACがパリ和平協定締結後に活動したこと、および選挙監視という平和維持戦略の中でもっとも貢献しやすい任務についたからだ」57と述べているが、UNTACの活動は、紛争当事者の受け入れの同意を前提としており、その点で、破綻国家への対応や国連の授権、普遍価値を正当化理由とする介入とは異なっていた。紛争各派がパリ協定に同意した思惑は様々であり、必ずしもパリ協定が提供した民族的和解は完全なものではなかった。しかし、それでもパリ協定への同意以外現実的な選択肢を持たなかった紛争各派は消極的ながらUNTACを支持していた。最終的には協定違反を繰り返し選挙に参加しなかったポル・ポト派でさえ、UNTACがプノンペン政権の行政機関を監督し、さらにそれを弱体化させられまいかとの思惑のもとにパリ協定に署名していたのである。このように、紛争当事者の合意が存在し、その要請をもとに介入するPKO活動においては、中立性の標榜がとりわけ重要となる。なぜなら、「PKOの成否は、究極的には、国連が関係国の人々の心をつかみ、国連の目的に協力してもらえるかどうかにかかっている」58のであり、当事者の同意を得た上で入っていくPKOにおいては、中立であると認識されることが現地住民のサポートをひきつける上で不可欠となるからである。3-B中立性の外観維持の弱点3-Aでは、UNTACの活動において中立性の外観を維持することがなぜ重要であったかをみた。しかし同時に、中立性を維持しようとすることのデメリットも存在する。中立性の標榜は、そのままUNTACの活動の弱点にもなるものでもあった。ここでは、中立性を標榜することでUNTACが達成できなかったもの、また中立性原則の弱点を論じ37257 Paul F. Diehl, International Peacekeeping : With a New Epilogue on Somalia, Bosnia, and Cambodia (Baltimore :The Johns Hopkins University Press, 1994) pp..197-198,水本、前掲論文p.18258明石、前掲書p.141