ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
369/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている369ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回最優秀賞いう事実は、UNTACの正統性を高める重要な要素であったといえる。カンボジアに関与しようというコンセンサスが国際社会に生まれていたことで、UNTACはその国際社会の意気込みを受けて中立に活動しているのだ、というメッセージを発することができた。そういった機運に応えてカンボジア国民は国際社会の支援意思を感じ取り、それを体現するものとして、UNTACを肯定的にとらえるようになった。なにより和平を望むカンボジア国民の意識が、周辺国の援助・会議を通した和平への機運を通して増大されたといえるだろう。国際社会の総意としての多様な支援国の存在からカンボジア国民のUNTACへの期待、信頼は増大し、UNTACが中立であると認識されやすい土壌が形成されていたのである。第三章中立性は絶対的価値か以上第1章、第2章では、UNTACの活動において中立性が揺らいだ具体的場面とその対応、またUNTACがいかに中立の外観を心がけていたかを検討した。そこでの本稿の主な主張は、UNTACは中立性が揺らいだ諸場面においても一貫して中立性を標榜することを心がけ、中立であるというシグナルを発し続けることによって信頼を獲得し、選挙に到達することができたのだということである。ポル・ポト派やプノンペン政権への対応を巡って厳密に中立性を維持することが困難な中でさえ中立性を標榜し、かつその意図を徹底することで当事者に中立性の認識・コンセンサスを形成しようとした姿勢は、UNTAC成功への重要な要素として評価されるべきであろう。一言でいえば、UNTACは、PKOにおける中立性原則を放棄するのではなく、それを掲げ続けることによって、中立性の揺らぎを克服したのである。367