ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回最優秀賞するプロセスにおいて、こういった普遍的な人権思想の広がりも、テレビやラジオを用いた広報活動とあいまって、一定の役割を果たしたと考えられよう。2-B SNCの重視UNTACが国民に信頼され、受け入れられることに貢献したと考えられる方策の二つ目として挙げられるのは、UNTACがカンボジア4派によって構成されていたSNC(カンボジア最高国民評議会)を重視する姿勢を見せたということである。UNTACの活動は、パリ和平協定によってカンボジアの国家主権を構成するSNCの権限を一時委譲されるという形でなされていたから、UNTACも権限としては強大なものを持っていた。しかし、UNTACは、可能な限りその強大な権限を振りかざさず、重要な決定事項はSNC議長であるシアヌーク殿下が決定したという形をとるように心がけていた。例として、パリ協定で定められた選挙法を一部改正したときの過程を見てみよう。UNTACは選挙にいたる過程で、ひとつは選挙人資格、もうひとつは投票場所について、パリ協定で定められた選挙法の修正を行っている50。結果的に、選挙人資格についてはカンボジアに住むベトナム人の選挙権をより厳しくする形で、投票場所については不在者投票をより柔軟に認める形で、それぞれ修正されたのだが、ここで検討したいのはその内容よりもいかにして修正がなされたか、というプロセスである。パリ協定によって明石氏は、SNCにおける選挙法改正の一方的な採択権限を持っていた。にもかかわらず、選挙法改正は、結局4ヶ月もの月日を費やしてカンボジア各派との討論と交渉が行われ、ポル・ポト派を除く3派の承認を得た上で公布された。時間をかけてもSNCの決定ということにすることによって、UNTACが強権的な占領軍のようなものではなく、あくまでカンボジア自身の民主主義を手助けする存在として振舞おうとしたのである。ただ、SNCにもいくつかの問題点が指摘されており、例えばSNCには拡大P551がオブザーバーとして会合に出席していたことから、SNCの政策決定には実際にはP5や関係諸国からの多大な影響力が見られた。また、「多元的な民主主義」を追及するにはSNCに仏教僧、NGOや国家以外の社会の代50 選挙法改正過程については明石、前掲書p.20、55、「検証・カンボジア和平と日本外交」(『世界』1999.11所収)p.143を参照51安保理の五常任理事国+インドネシア、日本、オーストラリア、タイ、後にドイツ365