ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回最優秀賞た各派への対応という視点をはなれて、より一般的にUNTACがカンボジア国民に受け入れられるためにどのような方策・態度をとったのか、検討してみたい。2-A広報・教育活動長年の紛争によって国民が疲弊し、国民が民主主義や人権、平和の理念などから遠ざかっているカンボジアにあっては、まずカンボジア国民を、既存の政治組織が維持しようとする心理的呪縛から解き放つ必要があった。そのプロセスを経ることが、国際社会の意思を体現するとされるUNTACを国民が受け入れるための土壌となるし、UNTACの中立を理解せしめるためにも不可欠だったのだ。そこでUNTACは、あらゆる局面において政治心理的な側面、すなわち広報・教育活動を重視した。1国民の約7割が文盲だとされるカンボジアにあっては、UNTACの広報・教育活動の大きな役割を担ったのが、いわゆる「ラジオUNTAC」である45。UNTACは選挙に先だって約20トンの携帯ラジオを無料で配布し、選挙活動期間の前後からUNTACの撤収まで、自前の放送局(ラジオUNTAC)と地方ネットワークを運営してカンボジア全土にラジオ放送を行っていた。UNTACは(1)選挙に関連するプログラムを連日放送し、(2)各政党に政権放送の時間枠を割り当て、(3)不当に中傷された政党が反論するための便宜を提供していたが、重要なのは(1)である。UNTACは、ラジオ放送を通じて、たとえば選挙期間中および選挙後のUNTACの中立性についてのドラマ番組を放送し、その活動を支持する広範な社会層の創出を試みている。また、「投票は秘密である、いろいろな圧力を受けたとしても投票所の中に入ったら自分たちの選択を自由にできるのだ」というメッセージを絶えず発信し、さらには「メディア・ガイドライン」を設定して誹謗中傷あるいは戦争を誘発するようなプロパガンダ、および国家的、民族的、宗教的敵意を喚起するようなメディアの利用を防止・処罰するとの方針を立てた。ラジオUNTACは広範なリスナー45ラジオUNTACについては、山内康英「カンボジアの選挙と国連によるメディアの利用」(『NIRA政策研究』所収1997 Vol.10 No.1総合研究開発機構)に詳しい。363