ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

4その答えは、その提案が、カンボジア国民にとって国民的シンボルであるシアヌークによるものであったからである。党派を超えた国民的統合の象徴としてシアヌーク国王がおり、政治的危機を打破する切り札として作用していた43。対立するフンシンペックと人民党を連立政権に持っていけたのは彼がいたからであり、UNTACの中立性の揺らぎも、正統性と強く結びついたシアヌークという存在そのものによって、あまり表面化することはなかったと考えられる。人民党とフンシンペックという二大政党の協力は現実的にカンボジアが民主主義に向かって歩んでいくために不可欠であったが、それを共同首相制というユニークな形で成り立たせられたのも、シアヌークの提案であるという事実が重要であった。選挙後の対応を巡ってUNTACが中立性の外観維持を達成できたとするならば、それは米国の強力な反対とUNTACの抵抗にも関わらず、自身の暫定連立政府案を推し進めることに成功したシアヌークという存在が、カンボジア人のシンボルとして強く正統性と結びついていたことに負うところ大だといえよう。第二章中立性の外観維持第一章「中立性の揺らぎ」で検討したことを総合すると、UNTACの活動はさまざまな場面で各派に対する中立性が揺らいでいるものの、その都度UNTACは中立であらんとする意思によって当事者の間に中立性の認識を生み出し、活動を進めることができたと結論付けられる。平和維持活動が成功するためには紛争当事者が介入者を仲介者として受け入れる意思をもつことが不可欠であり、そのためには仲介者たるUNTACがカンボジア国民に自らが中立だという認識を植え付けることが必要であった。明石氏の言葉を借りれば、「国連の平和維持活動の成否は、究極的には、国連が関係国の人々の心をつかみ、国連の目的に協力してもらえるかにかかっている」44のである。第二章では、第一章で見36243明石、前掲書p.11744明石、前掲書p.141